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サラリと言わないで欲しい

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会社から自宅に帰り、ただいまの言葉と共に、いつものように玄関を開けたにも関わらず、クラウドの声はしなかった。「おかえり」の一言とともにリビングから出てくるのが常であるのに、だ。出かけているのかもしれない、とリビングに直行してみると、クラウドはソファーに座っていた。

「クラウド」

 ソファーの後ろから腕を伸ばして抱きしめてみると、クラウドは「うわぁ!」と声を上げて、椅子から飛び上がりそうなほどに体を揺らした。

「セ、セフィ、帰ってたのか…」
「ただいま、って言ったし、今、ちゃんと、声をかけたじゃないか」
「うん、そうだな」

とクラウドは俯く。

「どうかしたのか?」
「どうもしないよ。考え事してた」

 そう言ってクラウドはA4サイズほどの紙を俺に見せてきた。紙の上部には『好きなものを10個上げて下さい』と書いてある。その下には『上記10個の中で一番好きなものを書いてください』と書かれていた。

「何だ、これは?」
「アンケートみたい。ザックスからもらった」
「一つも書いてないじゃないか」
「好きなものって範囲広すぎると思わないか。食べ物とか場所とか何か括りがないと書きにくいだろ。全部ごちゃまぜで好きなものっていいと思う?」
「いいんじゃないのか。好きだと思うものを書けば」
「うーん、じゃあ、書こうかな」

 クラウドがペンを握って紙に書くのを、ソファーに座って眺める。クラウドは1から10まで番号を振って、順に好きなものを書き始めた。ケーキ、バイク、などなど順番に埋まっていくが、1番だけが空欄になっていた。

「クラウド、1番は?」
「ん、ああ、セフィロス」
「は?」
「は、じゃなくてさ…」

 クラウドはふっと顔を上げて、俺と目を合わせると、笑顔を見せた。

「1番はセフィロスだってこと」

 笑顔付きでさらりとそういうことを言わないでもらいたい。胸が締め付けられるようだ。当の本人は素直に本心を述べただけだろうけど。

「一番好きなものもセフィロスって書いておかないとな」

 クラウドは何だか嬉しそうにペンを走らせている。

「それ、ザックスに渡すんだろう?」
「あ、うん。明日取りに来るって」
「俺の名前はやめておけ」
「…なんで? 一番好きなものを書けって書いてあるからその通り書いてるし」
「きっと冷やかされるぞ」

 その紙を見たザックスから間違いなく何らかのツッコミが入るに違いない。

「大丈夫だよ、俺がセフィロスのことを好きだってことは知ってるんだから」

 クラウドは一番好きなものの欄に俺の名前を書くと、よし、完成、と満足そうに言って、立ち上がった。
 クラウドの腕を掴んで見上げると、クラウドはそのままソファーに座り直し、嘘じゃないよ、と言って、俺の目を見つめてくる。

「本当に何よりも、誰よりも好き。一番好き。だから、そう書いただけ。セフィロスは?」

 逆に質問されると思ってなかった俺は、とっさに言葉が出てこなかった。

「俺のこと好き? 嫌い?」
「好きだ」

 絞り出すような声で告げると、クラウドは俺に抱きついてきた。

「よかった! お互い好きっていいな、嬉しい♪」

 まるで子供みたいに弾んだ声でいうものだから、俺はクラウドを抱きしめて、あやすように頭を撫でるしかできなかった。


<終>


お題は『恋したくなるお題』様よりいただきました。
可愛いお題が多いので、幸せな二人を書くにはピッタリなのです♪