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あっちゃん
あっちゃん
novelistID. 26969
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愛し方を知らない1月

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男女間での友情は成立するか、否か。

その問いに折原臨也は成立することはないと答えを出した。
なぜなら、今まで友達と思っていた新羅のわき腹を刺され倒れている姿に欲情している自分がいるのだから。
刺されたのは自分だと言うのに、それでもこちら側を安心させるようにいつもの笑みを浮かべガムテープを求める彼女。
恥じらいもなくブラウスのボタンを外し、スカートのフォックを外して少し下へとずらせば。刺された患部が丸見えとなり白い肌を赤く染めあげる。
ドクンと胸が強く脈打つのを自分で感じた。
これは嫉妬だ。
自分には持ち得ないものを相手が持っていると言う劣等感にも似た嫉妬。
そしてその嫉妬を上回るような欲情。彼女より優位な立場に得ることによって、この嫉妬心を捻じ伏せてしまいたいと思う、自分の浅ましさ。
今日この時初めて愛すべき人間の中で、特別な人間を見つけた。


あの事件の後も2人は何ら変わることもなく、隣を並んで歩く。
あの折腹臨也と平和島静雄の隣を並んで歩ける人物は岸谷新羅しかおらず。折原と平和島がいつも喧嘩と言う名の破壊活動をしているのは岸谷をめぐっての三角関係ではないかと噂されたこともあるが、ただ岸谷新羅が彼ら2人に勝るとも劣らぬ変人なだけであると言うことに同窓生も気づき、そのような噂は忽ち消えてなくなった。
もしくは性格も趣味も悪いが、顔だけは良い折原が毎日違う女を連れて歩いていることが多いせいかもしれない。

「全く僕は君たちを治療する為に医療の心得があるわけではないんだよ」

なら、何の為だとはわかりきった惚気の言葉が返ってくるだろうと、ありありと想像が出来るので口を閉じる。
日常になってしまった喧嘩のせいで、岸谷自ら準備した救急箱から消毒液を取り出し、脱脂綿に吹き付ける。
ちょっと沁みるよかもよ。なんて言われなくも今日が始めてではないので知っている。

「君たちが犬猿之仲だと言うことは知っているけど、呉越同舟と言う言葉を知ってもらいたいね」
「シズちゃんが死んだらね」
「今日私はね、学校が終わったら三十六計の1つに従い家に帰ってセルティと屋烏之愛を確かめる予定だったんだよ」
「あぁ、そう。それは残念だったね」

新羅が片思いの相手の惚気話を聞きながら、どうして女と言う生き物はお喋りが好きなのだろうか考える。
治療を受けている途中の為逃げることも出来ず、だがそれにいつものように言葉で撒くには自分は疲れすぎている。
恋をしています。と言わんばかりに眼鏡の奥の瞳を輝かせる彼女を見ていることも出来ずに、視線を下へとそらす。
夏ブラウスに白い下着が透けて見えた。
『セルティはね。全身黒で決めているから、私が白い服を着るんだ。そうしたら影と光。2人で1つ。相思相愛のように思えない?』
ブラジャーまでも白を選ぶ彼女に臨也は名前だけの男に嫉妬した。

「新羅」
「何?痛いとか言わないよね?」

問いかけの後の無言に、本当に傷が痛むのだろうかと新羅が患部から目を離し臨也を見る。
臨也はただ少女の発育不良の小ぶりな胸の下に残る傷を見ていた。

「触る?臨也が残した傷だ。セルティ以外に私の素肌を触らせてやるつもりは未来永劫ないつもりだけど。臨也だけには特別に私の傷に触れさせてあげるよ」

手当てを終えたその手がそのままペラリとブラウスを巡る。引きつったかのような傷跡にそっと触れた。

「痛い?」
「傷だけで痛みはない。だからって、爪を立てないでね」

あの化け物に新羅の全てを奪われていないことに、臨也はそっと笑った。



これは嫉妬だ。
化け物に愛しい人間を捕られた嫉妬だ。