甘い夢
二人が付き合っていること前提で書いています。
夜も更け、静まり返ったドイツのとある一軒屋。
其の静けさを壊すかのように一人の男の声が木霊する。
「隊長、ただいまであります。」
そう言うとその男は、目の前でソファに座り、読書をしていた男に向かって左手で敬礼をした。
それを見た隊長と呼ばれた男は、大きく溜息をつくと、目の前の不法侵入してきた男を見据える。
「フェリシアーノ、ただいまって・・・ここはお前の家ではないだろう。それより、敬礼の手が逆だ。」
読んでいた本をぱたりと閉じると、サイドテーブルにそれを置き、フェリシアーノのおでこを小突き、仕方が無いといったような感じで少し笑った。
「ヴェー・・・痛いよ、ルートぉ。あれ、ギルは?」
小突かれても嬉しそうなフェリシアーノ。
辺りを見回し、ルートヴィッヒに問いかける。
「兄さんなら、本田の所に泊まると連絡があったばかりだ。」
そう言いつつ、ルートヴィッヒは無意識にフェリシアーノの頭を撫でた。
「あれ、じゃあ・・・入れ違いになったのかなぁ。数時間前まで菊の家にいたんだよぉ」
撫でられながら嬉しそうにフェリシアーノはそう言うと、思い出したかのように本田菊から預かった紙袋を差し出した。
「ん?なんだコレは?」
ルートヴィッヒは受け取り、袋を開けながら中を覗き込む。
そこに入っていたのは一枚のCD−Rと一通のメモ書き。
『ルートヴィッヒさんへ
本日、フェリシアーノ君達と遊ばせていただいたのですが、其のとき撮影させていただいたものを贈らせていただきます。
後ほど見てくださいね。
では、また会議でお会いできるのを楽しみにしています。
本田 菊より』
ルートヴィッヒがそれを読み、ふと視線をフェリシアーノに戻すと、いつの間にか目の前に顔があり、ちゃっかり膝に対面するように座られていた。
「ヴェ・・・そんなの何時の間に取ったんだろう?
まぁいいか。」
目の前に居るルートヴィッヒをじっと見つめて、小首をかしげる。
ルートヴィッヒは、もらったモノをサイドテーブルに置き、そのまま片手でフェリシアーノの腰を抱きつつ笑った。
「まぁ、本田のことだ、また何処かに仕掛けて取っていたんだろう。
それより、その小さい箱はなんだ?」
フェリシアーノが手に持つ小さい箱を見てそう言う。
それに気づいてくれたのが嬉しいのか、フェリシアーノはにっこり微笑んだ。
「今日ねぇ、菊の家でアーサーとマシューと菊と俺でトリュフチョコレート作ったんだぁ。
ルートに食べて欲しくてまっすぐこっち来たんだよぉ。
食べてくれる?」<
そういいつつ、微笑むフェリシアーノ。
そして、自分でラッピングした包みと箱の蓋を開けると、包み紙を床に放り投げ、ルートヴィッヒに突き出す。
ルートヴィッヒはソレを苦笑いで見つつ、後で片付ければいいかと思いながら、一つ摘んで口の中に放り投げる。
ココアパウダーの苦味と、ほんのり甘いチョコレート独特の甘みが口に広がった。
「うん、うまいぞ。
相変わらず、お前はこういうのを作るのはうまいな。」
そう言って、手に付いたココアパウダーを舐めようとした途端、其の手を膨れっ面のフェリシアーノに止められ、苦笑いをした。
「こういうのをってなんだよっ。
他の事だって、出来るの知ってるでしょう。
ヴェ・・・ルートの意地悪。」
拗ねたように口を尖らし、そんなに拗ねてはいないのに、拗ねたフリをするフェリシアーノ。
掴んだ手は離さないまま。<br />
それを更に苦笑いして、ルートヴィッヒは感謝と謝罪の意を込めて頬に口付ける。
それに気を良くしたのか、フェリシアーノは、えへへと笑った。
「・・・で、何時まで手を掴んでいるつもりだ?」
手をずっと掴まれたままのルートヴィッヒはフェリシアーノを見つつそう言った。
そう言われたフェリシアーノは、ルートヴィッヒの手を見ると、其の手を引き寄せ、ココアパウダーが付いた人差し指をペロリと舐めた。
「お前は何をしてるんだ?」
呆れ顔でルートヴィッヒがそう言うと、フェリシアーノは持っていたチョコレートの箱をサイドテーブルに置き、両手でルートヴィッヒの手を持ち、にっこり笑った。
「んー・・・パウダー付いてたから、舐めてるだけであります」
そう言いつつ、親指に付いたココアパウダーも舐める。
そしてそのまま、親指を口の中に含むと、唾液を絡ませるかのように音を立てて舐め始めた。
それを呆れ顔で見つつ、ルートヴィッヒはフェリシアーノの腰を引き寄せる。
それにびっくりしたフェリシアーノは、指を舐めるのを止めて、ルートヴィッヒの顔を見る。
顔を上げたフェリシアーノを見ると、そのまま軽く微笑み、サイドテーブルにフェリシアーノが置いたチョコレートを手に取るとソレを自分の口に含み、少し半開きになっていたフェリシアーノに口付ける。
「んっ・・・ふっ・・・んんっ」
くちゅりという水音と共に、フェリシアーノの口から甘い吐息が漏れる。
口内で動くルートヴィッヒの舌とチョコレートがフェリシアーノの熱を上げていく。
フェリシアーノの腰を抱いていない手は、フェリシアーノの手を絡み繋ぐ。
「ぁ・・・んっ・・・ふぁ・・・」
甘い吐息と共に、どちらのものか分からない唾液とそれと混ざり合ったチョコレートをフェリシアーノは飲みきれないのか、それらが唇の端から流れ落ちる。
フェリシアーノは絡み付いてきた手をきつく握り返すと、片方の手でルートヴィッヒの背中に手を回す。
静まり返った部屋には、二人の口付けから出る甘い吐息と水音だけが響く。
長い長い口付け。
そっとルートヴィッヒが唇を離し、眼下のフェリシアーノを見ると、蕩けた顔が見えた。
それをくすりと笑い、唇から零れた唾液を舐めあげ、そっと抱きしめる。
お互い繋いだ手はそのままに。
恥ずかしそうにそれを受け入れると、フェリシアーノはルートヴィッヒの胸に顔を埋めた。
フェリシアーノは服越しに聞こえるルートヴィッヒの心臓の音を聞きながら、この幸せな時間がずっと続けばいいなと願った。
ソレはルートヴィッヒも同じで、言葉にしなくてもその想いは互いに通じ合っていた。
それでも二人は言葉にする。
お互いの気持ちを確かめるために。
「ルート、愛してるよ」
「ああ、分かってる。俺もだ、フェリシアーノ」
抱きしめたままそう呟く二人。
熱に浮かされた二人の間に羞恥心などは何処かへと消え去っていた。
そして、その熱に浮かされたまま何度も確かめる。
甘いむせ返るかのような時間。
この幸せな時間が二人の心の代弁者になる。
心から愛しているという代弁を。
END