赤い英雄の嘘塗れ
寝ている人間に話かけるのはすごく味気のないものだ。寝ているから返事がないのは当然だし、ただ眠たいから寝ているわけではなく、怪我により意識を失って昏倒が原因だとしたら心配で気が気ではない。
それでもティルはその寂しさを紛らわす為に、ベットで横になったファルーシュに話続ける。
「でも風邪を引くほど身体が弱いわけでもないし、やっぱり精神的なものかなぁ?これくらいで倒れるほど弱いとは思わなかったんだけど?あれ?認めたくないだけなのか?」
まるで御伽噺に出てくるお姫様のように、白い肌をいっそ青白くさせてファルーシュは眠る。
その直ぐ横の床に直に座り込み、ベットに上半身を預けティルは眠るファルーシュに話続ける。
「だいたい、ラズロやキリルさんも冷たいよな。命に別状がないとわかったらあっさり帰っていくし、長く生きると皆あぁなるのかな?でも、テッドは全然違ったような気がするし。やっぱりあの2人が冷たいんだろうな」
いつもと何1つ変わらぬ笑みを浮かべて、どこかへ行ってしまったラズロとキリルの姿を思い出し、ティルは自分の心が苛立つのを感じた。話す内容も自分の事からラズロとキリルへの愚痴に変わる。
「そういえば、エイプリルフールの日にさ、キリルさんにラズロが死んだよって嘘をついたらさ。疑いもせずに、「そうなの?ラズロが死んだなんて知らなかったな。ラズロも死ぬ時くらい教えてくれればよかったのに」って言うんだ。無茶苦茶だよね。ラズロにもね「キリルさんが死んだらしいよ」って嘘をついたらさ。「彼の願いもかなったことだし、2世紀も生きたんだ、彼も後悔はないだろう」って簡単に認めちゃうんだよね。俺にはあの2人が仲がいいのか、悪いのかわからなくなったよ。でも、俺はさ2人とも簡単に騙されてつまらなかったからさ、偽の墓地を用意してさ、2人が墓参りに行くときにばったり会うように仕向けたんだ。それこそ偶然を装って。凄く楽しかった。2人が墓を基点として反対側から向かってくる時のあの臨場感、これから2人がどんな反応を示すのか考えただけで面白かった。死んだと聞かされた人間が生きて目の前にいることに驚くのか、喜ぶのか、嬉しさのあまり抱き合うのか、それとも嘘を本当にするために殺しあうのか。俺はそれが見たかったんだ。」
ティルが自嘲気味に笑う。実験の結果を思い出しての笑みか、下手な嘘をついた自分に対しての嘲りか、嘘をついた先にある報いの結果か。シーツに頭を押し付け、眠るファルーシュの顔を穴が開くほどに見つめる。
「ファルーシュお前は2人がどうなったと思う?」
返事はない。まるで屍のようだ。
「2人ともまるで互いの存在が見えていないかのように、目もあわせず、一言も発せずに、ただ何も書かれていない、その下に眠るものも居ないただの石を愛でて帰ったんだ。
全くもってあの2人は僕の予想を簡単に裏切ってくれる。それから俺はあの2人を観察してたよ。二人がどういった行動をとるのか、そしたらさ、いつも通り、隣にいるんだ。
隣にいるのに、目もあわなければ、話かけもせず、触れ合うこともない。気持ち悪いくらいのシカトだ。あんなに近くにいるのに。本当にお互い同士が見えていないかのように空気扱いしててさ、最初は楽しかったけど段々と不気味に感じてあれは嘘だよって2人に言ったんだ。そししたら2人は2人で目をあわせて笑った。あの無表情に近いラズロも、いつも困ったような笑みを浮かべているキリルさんも。」
「笑ったんだ」
「あの笑みはどういう笑みだったのかな?お互い相手が生きていて嬉しいと思う笑みなのか、俺に騙されたふりをして俺に罪悪感を抱かせることに成功させたことへの笑みか。
俺はその笑みの意味が図りかねて2人に聞いたんだ。どうして笑ってるのかって?そしたら「孤独に耐える予行練習が無事終わってよかった」って意味で笑ったらしい。あの時はさっぱり意味がわからなかったけど、今ならわかる気がする。俺にとっては今がその予行練習だ。お前がいない孤独に耐えるための。だけど、全くもって上手く行く気がしないよ。」
「なぁ、早く目を覚ましてくれよ」
「ファルーシュ」