罪悪感
背中にずしりと重みがかかり、ふわりとシャンプーの香りがした。
「んー?」
俺が聞き返すと、艶やかな黒髪を嬉しそうに揺らして、頬を摺り寄せてくる。
「好きだよ」
他の誰にも見せないであろう子供らしい無邪気な笑顔を向け、甘い声で囁く。
これは“兄”として自分を好いているのだろうと自分に言い聞かせておかないと、俺自身うっかり勘違いしてしまいそうな雰囲気だ。
…まあそれ以外の意味でこいつのことが好きっていうのは、否定はしない。
だけど俺たちは仮にも兄弟で、将来大きなモノを背負っていかなかればならない二人で―
………言い逃れするように勝手に思考回路を巡らせる頭をぶんぶんと振る。
それが拍子で「兄さん?」と訝しげな視線を送ってくる最愛の弟に、俺はできるだけ今の心情を読み取られないように心を無にして微笑みかけた。
「俺も好きだよ」
できるだけ、できるだけ。
お兄ちゃんは、家族として弟がすきなんだ。
そう自然な感じで言えばきっとこの気持ちもばれない。
…しかし、やっぱり感の鋭いこいつには無意味だったみたいだ。
かの変人陰陽師の修行のおかげで心のシンクロ率も上がったせいか、こいつの意識が少しの透きにするりと入り込んでくる。
「ちゃんと、本当の“好き”を言って?」
「い、今言ったじゃん」
「違う」
ぷぅ、と頬を膨らませる。
か…可愛いじゃねぇかちくしょぅ…
もう、お兄ちゃん完敗だ。
ちょっとした罪悪感で震える両腕で抱き寄せ、ぎゅっと力をこめる。
「…好き…」
心からの好き。
愛してる。
弟としても。
一人の人間としても。
―――…一人の、男としても。
「兄さん」
いつもよりか数倍甘い声で呼ばれて顔を上げると、綺麗で整った顔がすぐそばに来る。
「やっと本当の“好き”を言ってくれた」
「う…」
事を掘り返されて言われると、なんだかこっぱずかしくて自然に顔が熱くなった。
これだけ近くにいると、きっと今俺がどれだけ恥ずかしい顔をしているか丸見えなんだろな。
だけどそれは次第に平気になって、至近距離で見詰め合うと心臓が飛び出そうなくらい歓喜に包まれた。
これは、一線を越えられたからだろうか。
……いや、正確には越えてしまった、の方がしっくりくる。
好き合っても所詮兄弟。
でも今はそんなことは考えられなくて。
ただ、抱きしめられた言の体温を感じていたかった。
終