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長谷川桐子
長谷川桐子
novelistID. 12267
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【夏コミサンプル】あやかし綺譚【ようかいもの(仮)改題】

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「……ここ、か?」
 そうです! と元気よくこたえる帝人の横で、静雄は頬を引き攣らせてその建物を見上げた。
 一言で言うとぼろい。二言で言うと凄くぼろい。静雄が蹴りのひとつでも入れればたちまちに崩れてしまいそうな、二階建ての建物。頑丈なぶんだけ、閉じ込められていた牢のほうがまだましだな、と考えていた静雄を置いて、帝人は嬉しそうにその外階段に駆け寄った。
 二階なんですよ! と。嬉しそうに帝人はたんたん、と軽快な音を立てて階段を上る。それに続こうと踏み出した静雄の足元で――
「……………あとで大家さんにご挨拶がてら、謝りに行きましょうね…」
 がん、と鈍い音をたてて穴をあけた金属製の階段を見下ろしながら。帝人の言葉に静雄は黙って深く頷いてこたえた。

 外見のぼろさ同様、薄っぺらい木の扉を開いた先も、お世辞にも綺麗とはいえない室内だった。意外にも隅々まで掃除は行き届いているようだったが、日に焼けた畳に白い水垢のついた水場に……なんともいえない古臭さが漂っている。
 今まで――つい昨日まで住んでいた場所を考えると、静雄はともかく帝人は耐えられるのだろうか? と、微かに心配して見下ろした傍らの黒い頭はきょろきょろとさして広くもない室内を見回している。
「ちょっと懐かしいです」
「?」
 首を傾げた静雄に、帝人はほんわりと笑いながら続けた。
「竜ヶ峰に来る前に住んでいた場所も、こんな感じのアパートだったんですよ。家族三人でしたから、さすがに一間ではなかったですけど」
 そう言いながらきちんと揃えて靴を脱ぎ、とてとてと畳の上を歩いていく小さな背中を、静雄は複雑な思いを抱いて眺めた。
 帝人の両親は、既に鬼籍に入っている。
ひとの命は静雄のようなあやかしから見ればひどく儚くとても短いものだ。帝人自身もいつかは両親の元へ行くのだと、そう考えていること自体は自然なことで、なにもおかしいわけではない。
 けれども、帝人はそれがそう遠くない未来のことであると、そう思い込んでいる。三年の後には、静雄に喰われてその短い一生を終えるのだと信じて疑わない。
もう喰うつもりなどないのだということを、未だ告げていない静雄も悪いのかもしれないが。それを除いても、帝人はどうにも生きることを諦めているような節がある。静雄と共に生きていく未来を少しも考えていないようなところが、静雄には歯痒く腹立たしい。
「静雄さん?」
 押入れを開けて中の様子を確認していたらしい帝人が、玄関先に立ち尽くしたままの静雄を振り返り不思議そうに首を傾げる。
 くそ、と口の中で吐き捨てて静雄は靴を蹴り飛ばすように脱ぎ捨て、大股で帝人の元へと足を進める。きょとり、と見上げてくる顔の小さな頤を衝動のままに掴み、なにか呟こうとしたのか薄く開いた唇に、腰を折ってずいと近づいた。
「へ?」
 ちいさく疑問の声をあげてしまったがゆえに、少年の口内はたやすく男の侵入を許してしまう。縋る場所を求めるように静雄の胸元を引っ掻く細い指を、傷つけぬようにそっと絡めとる。

 ぷは、と水からあがったようにおおきく息をする帝人を目にして。ようやく胸のつかえがとれたような気がして静雄は頬を緩めた。
「何度も言ってるじゃないですか! するまえにひとこと言って下さいって」
「言えばいいのか?」
 問い返すと赤い顔のまま、うう…と小さく唸りながら口ごもる小さなくちびるを再び塞ぐ。

 ***