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終わりの先へと向かうぼくらは

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世界の最後の1時間は過ぎた。けれど、宣告されたのは本当の終わりではない。
仮想の終わりだ。指で弾けば簡単に消えるちっぽけなまやかしだと分かっているのに、
ジャンが口にすると何だか本当のことに思えてきて怖かった。あいつは高等な魔法使
いか何かなのか、と思わず考える。煽られるままいたら、結局いつもと変わらない形で
時間は過ぎてしまった。ジャンと居るとどうも身体が先に先に行ってしまう。うねる熱の
奥の奥まで、知りたくなってまさぐり尽くした頃には下肢の興奮も冷め、隣で枕に顔を
乗せつつだらんと横になっているジャンが視界に写る。今みたいに。肌にまだ汗の退
いた跡が残っていて、過ぎ去った1時間の記憶がまだすぐ傍に、けれど確実に取り戻
せないところにあるのを知る。いつもならさっきまでの情事のことを思い出して、微妙な
熱をもやもやと持て余して誤魔化すようにシャワーを浴びに行くところだが、込み上げ
るのは底を探っても届かない不安と焦燥ばかりだ。世界の終わりは、ジャンの世界の
終わりで、それはさっきの1時間限りで奪われているような気さえしてくる。続きがある
という証拠が欲しくて、頭上から言葉を浴びせた。
「―――おら、シャワー浴びっぞ、タコ」
「ん〜・・・あー先行っててー・後から行く〜・・あ〜だりぃ・・・」
イヴァンは眉をぴくりとしかめた。全くどこまでいってもジャンは自分の意図通りにならな
いというか、手中に収まらない。掴んだ感覚もなくて、言い合いながら同じくらいの早さで
歩いて、たまに先に行き過ぎてもジャンは必ず振り返るのだ。遅えぞバカ、なんて言葉
もつけて。どれが欠けててもこうして傍に居たいとは思うようにならなかっただろう。ただ、
今はそれも不安を作るばかりだった。今だけでも思う通りに言葉を返し欲しかった。
けれど、ジャンを疲れさせてしまったのも自分だし、あの1時間で世界は終わってもいな
いし変わってもいない筈だ。気持ちだけが余計な方向に先行しているだけだろう。そう信じる。
「っけど・・・・!っ分かった、そのまま寝るなよ・・・!」
寝そべるジャンを横目でちらと見る。視界に姿が写るとやっぱり名残惜しくなって、ベッドから
離れるのに躊躇った。気づけよ、と心の中で嘆くだけ嘆いて、イヴァンは1人バスルームに向
かった。1人分の体重が浮く際に鳴った鈍いベッドの軋みが鼓膜に刺さる。シャワーの湯を浴
びながら、世界が切り離されて、遠くなる感覚が襲ってくるのを感じた。水温の残響が虚しい。
イヴァンは暫く下を向いて湯に打たれるがままになっていた。隣に誰もいない事実から必死で
逃れようとしていたけれど、無理だった。今はいつも以上に、ジャンを求めているのだ。想いは
強くなるばかりでどうしようもなく、シャワーを止めるのも忘れてイヴァンはドアの向こうにいる
ジャンに向かって声を絞る。叫ぶ。
「っおいジャン!!早く来いよ!!――・・・寝てんなよ!!」
「寝てねえよ!!」
ジャンの声が聞こえて、はっとする。返事を求めたのは自分なのに、やけくそで投げた言葉が
ちゃんと返ってきたのに驚いてしまって、バスルームのドアの向こう側を向いては目を瞠る。
シャワーの水音に混じってジャンの足音が段々こちらに近づいてるのが聞こえる。安心して、
無意識に握り拳を作っていた手が震えた。未来は、来た。ちゃんと。一瞬顔がくしゃりと情け
なく歪む。上手く笑えないでいると、ガチャリ、とドアの開く音が響いた。さっとジャンの方から
いつものように顔を逸らして、迎える。唯一無二のダチと、世界の終わりの先の時間を。
「遅えぞ、このタコ!!」