友神さま
俺には友達がいない。
…いや、いなかった。
アイツと出会ってから、周りから何となく避けられることもなくなって、友達と呼べる存在が増えて。
アイツは、俺の世界を変えてくれた。
オレは、そんなアイツが好きになった。
だから、思い切って告白した。
…………だが
「ギルベルトさん、実は、私黙っていたことがあるんです」
菊は急に真面目な顔をして、いつになく真剣な口調で話し始めた。
…あれ?俺の告白、軽く無視されてね?
「な、なんだよ?つか、俺の告白…」
「……私、人間じゃないんです」
だから俺の告白を……ん?
「………はあっ!?」
「嘘じゃありませんよ」
え、ええええええええ!!!?
いやいやいや、意味が分からん。人間じゃないって、え?
何この展開。つーか!俺の告白がどうでも良くなっていってんだけど!
軽くじゃないパニックに陥った俺を他所に、菊はにこりと微笑んで告げた。
「改めて自己紹介します。私は友の神、『友神(ゆうじん)』の本田菊です」
拝啓、親愛なる親父殿。
初めての友達は、人じゃなく、神様でした。
「って!ゆうじんって何だよ!?あれか、『友人』とかけた冗談のつもりか?!」
「いえいえ。本当に神様なんですって」
真面目な友人の突拍子もない冗談であることを期待したが、菊の態度はいたって真面目そのもの。
からかってるとか、そういった素振りもない。
このフザケタ話はマジな話のようだ。
「大体、友の神だあ?聞いたことねーぞ、そんなもん」
「はぁ…何せ最近生まれた神ですから」
「マジかよ」
そんな現代的な神様っているのかよ。初耳だぜ。
「現代は、コミュニケーション力の不足により、人と関わりを持つのが苦手な人間が増えています。そんな方達のお手伝いをするのが、友神としての私の使命なのです」
「なんか、ちっちぇ神様だな」
神様って、もっと大掛かりなことをするもんじゃねーの?
そんな一個人レベルの問題解消のために動く神様ってどうよ?
「神に大きいも、小さいもありませんよ。現に貴方だって、私のお陰で友達が増えたでしょう?」
「はぁ?そりゃ俺様の人徳って奴だろ!」
フフンッと胸を張って誇らしげに叫ぶと、菊の目がじとっ…と細められる。
「……目つきの悪さと無愛想さで避けられていた貴方が?」
「うっ…!」
ぼそり、と低く小さく囁かれた言葉は、確実に俺の痛いところを抉った。
否定しようにも事実なので、どうしようもない。
「おまけに乱暴者で、売られた喧嘩はとことん買って、変な噂ばっかり広まって、けどその俺様な性格のせいで自分から歩み寄ることもできず、ずっと孤立していた貴方が?」
次々に繰り出される言葉は、刃物なんかよりも鋭く俺をずったずたにしていく。
冷静な口調のお陰で、ダメージ倍増してる気分だぜ…。
「お前…何もそこまで言わなくたって……俺様傷つくぜー」
「ですが、事実でしょう?」
「…フォローしろよ」
「出来るならやっています」
何、この毒舌の嵐。俺そろそろ泣きそうなんだけど。
いつもニコニコしてて、優しくて、俺のこと怖がらずに接してくれた菊は何処へ行った…!
冷たい視線が、ものすごく、いてぇ…。
「菊が俺様に優しくねぇなんて…これは夢か、悪夢なのか」
「現実です」
「……」
ああ、現実なんてくそくらえだチクショウ!
つーか!俺の一世一代の告白は何処行ったんだ!!