誕生日
日付が変わる頃、誰よりも早く何よりも大切な人の誕生日を祝う。産まれてくれてありがとう、生きていてくれてありがとう…そんな気持ちを込めて毎年毎年抱きしめてきた。
…が、今目の前で繰り広げられている光景は…
「何やってんだ?お前ら。」
千秋にそう言わせざるをえないもので。露骨に不機嫌だという声で片眉を上げる千秋に、
「千秋さん、え~っと~」
「ハイハ~イ!俺が説明するよ!かなでちゃん!」
のんびりとした常の口調で答えようとしたかなでを、得意気な声と元気な挙手で新が遮り、そんな二人の間に蓬生がそれぞれから抱きしめられて座っている。
「蓬生さん誕生日でしょー?だから、日付が変わったと同時にギューッてしてお祝いしたら、蓬生さんビックリするかな~って♪」
ギューッの言葉と一緒に抱き締める腕に力が入り三人の体が益々密着する。
「二人がやってきたかと思ったら、いきなり抱き締めてくるんやもの、ビックリしたわー。」
と、穏やかな口調と笑顔で蓬生が言えば、二人は顔を見合わせ、大成功と言いながら嬉しげに笑い出す。そんな二人の頭を愛しむように撫でる蓬生に益々千秋の機嫌は悪くなっていくが、三人共全く気が付かないようで、
「千秋、顔が怖いですよ?」
「ああ?俺の顔が怖い?そんな訳があるか!」
「いえ、怖いです部長。」
冷静且つ的確な雪広と睦の突っ込みに苦虫を噛み潰したような顔になる千秋の様子に、二人は正直な男だな…と小さく笑う。
「土岐さん、なんだかすみません。東金さんが凄い顔でこっちを睨んでいるんですけど…」
「うわ!ホントだ!怖~い!」
いまだに抱きついたままでいる二人の頭を撫でながら蓬生がチラリと視線をやれば、ものすごい目つきで自分達の方を見ている千秋が目の端に入る。その表情から自分への想いを伝えられているようで、嬉しさから自然と口元に笑みが浮かぶ。
「土岐さん?嬉しそうですね?」
「ん?バレとう?今、俺凄い幸せ者やな…って思うとったんよ。二人のおかげやね、ありがとう。」
極上の笑顔で二人を見れば、
「どういたしまして」
と、かなでは顔を朱くし
「蓬生さん、蓬生さん!今の笑顔もう一回!」
新は興奮状態になる。そんな様子にとうとう我慢できなくなった千秋が二人から蓬生を奪いそのまま、自室へと連れ去っていったのは日付が変わって20分と経ってはいなかった。