ノボリさんがタバコを吸ってるだけの話
カチリ、と固い音がしてライターに火が灯る。
火を見ると少し落ち着くのは何故だろう。火を使いはじめたのが人間だからだろうか。
口にくわえたタバコに火を近付ける。
チリリという音と共にタバコに火がついた。
あぁ、それにしても最近のライターは不便になったものだ。
子供への安全性を考えて、火をつけにくい仕組みのものや強く押さないと着火できないものが増えている。
それでも、大人である自分にはさして影響はないのだが。
ふわり、と、最初の煙が宙へ舞った。
一番はじめの煙を吸い込んだときの満足感がたまらないからタバコを吸うのだろう。
完全にニコチン中毒となっている自分に、誰にも分からない程度に口元に笑みが浮かぶ。
タバコを吸いながらチラリとタバコのパッケージへと目を向ける。
深い深い青が渦巻くパッケージ。葉を加えた鳥。
永遠、平和。害しかないタバコには似つかわしくない言葉だ。
この青は何を意味しているのだろうか。
空というには少し暗すぎる。まるで深海のようだ。
深い深い海へと誘うためのパッケージだろうか。ならば何故鳥がいるのか。
少しの間、パッケージの意味を考え、無意味だとそれを切り捨てる。
あぁ、次の挑戦者が来る前にタバコを吸いきらないと。
電車内は禁煙なのだから。
5秒ほど、煙を吸い込み吐き出す。肺に満ちていく煙に満足感が増す。
こうすると煙の味が分かっていい。鼻から吐き出すとまた違った味が感じられるのも興味深い。
吸いこんだ瞬間にパチリとタバコの先についた火が爆ぜる音がする。
肺に入れた煙が喉を焼いているような感覚を感じる。
舌にはピリピリと些細な痛みを与えてくれる。
先程も思ったが、害があると分かりながらも吸い続けるのはこの感覚も好きだと思ってしまったからか。
長くなってきた灰を灰皿へと落とす。
紫煙が部屋の中に溢れていく。しばらく白く濁った煙が漂っては消えていく。
喫煙者はこの喫煙所でしかタバコを吸えなくなった。肩身の狭くなる思いだが、非喫煙者に害を与えたいわけではないのでしょうがない。
非喫煙者代表であるクダリを思いながらタバコを吸い続ける。
徐々に短くなっていくタバコ。過ぎていく時間。
そろそろ吸い終わる頃だ。フィルターを通してタバコの熱が伝わってくる。
フィルターぎりぎりのところまで吸い、タバコの火を揉み消す。
さて、仕事に戻らねば。
作品名:ノボリさんがタバコを吸ってるだけの話 作家名:るり子