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神奈川予選準決勝の第二試合が終わると同時に人が動いて大きな流れが出来る。
 葉蔭学院の選手たちも流れに逆らわずスタジアムを出た。
 その顔に涙はないが口数も少ない。
 特に、一二年生はそう指示を受けたわけでもないのに私語をしなかった。
 見かねた真屋が三年の輪を抜けて声をかけて逆に気を使わせ、振り出しに戻る。

 これから全員で学校へ帰り、ミーティングの後解散の予定だった。
 スタジアムの外で監督の指示があるまで待機しているのだが、監督は少し離れた場所でまだ関係者と話している。
 様子からしてまだしばらくかかりそうだった。
 その間、疲労と空気の重さに焦れる仲間たちに主将の飛鳥が一人ひとり声をかけて回った。
 チームのために誰より尽力した飛鳥に丁寧に言葉をかけられ肩を叩かれると鼻の奥がツンとくる。
 その背後で真屋が面白くなさそうにしていたが、
「仕方ないっすよ、飛鳥さんには誰もかないませんって。」
 鬼丸が我がことのように誇らしげに言った。
 生意気なその首にヘッドロックをかけて懲らしめていると、それを見ていた周囲の緊張が綻んだ。
「チッ、結局引退までこういう役回りかよ」
 飛鳥のようにはなれない。しかし、こうして空気を変える仕事は飛鳥にはできない。
 わざとらしく溜息をつく真屋だが、嘆くには穏やかな眼差しで後輩たちを見渡した。
 その端に明るい髪色の後頭が見える。

「どうした、タク」
 蝦夷巧の視線の先には江ノ島高校の集団があった。
 葉蔭学園に勝って決勝進出を決めた江ノ島の選手たちはこちらと対照的に賑やかだ。
 それを悔しく眺めているのかと思って顔をのぞき込む。
「いえ…」
 予想に反して悔しさの色ではなかった。どちらかと言えば不安に近い顔だと思う。
 蝦夷は一瞬だけ真屋を振り返ったものの、江ノ島の集団が動くのに敏感に反応して視線をさ迷わせた。
 その視線を感じてか、たまたまか、集団の端で一年生同士固まっていた逢沢駆が振り向く。
 視線が合ったのだろう。蝦夷の肩が揺れた。
「声掛けたいんなら行ってこいよ。」
 簡単にポンと肩を叩く真屋を振り返ると、頼もしい顔で「向こう行っちまうぞ」と笑った。
 蝦夷は迷い顔のまま、背中を押されるがまま駆け出した。

 見送る真屋の横から顔を出した鬼丸が口笛で軽い音をたてる。
「真屋さんカッコイイ!」
 茶化す後輩の頭を小突く。
 二人の見つめる先では蝦夷が逢沢に追いつくところだった。

 呼び止めてから言葉を探して迷った蝦夷は携帯を突き出した。
 ぐっと顔を上げる。
「メアド、交換しようよ。」
 突然の申し出に面食らった逢沢を「早く」と急かす。
 江ノ島の集団は引き留められた逢沢を置いてゆっくりと移動を始めていた。
「ほら、赤外線」
「えっと…」
「自分の携帯じゃん、トロいなー」
 横から文句を言いながらもじっと赤外線通信をスタンバイして待っている。
「トロ…いきなりなんなんだよ!」
 逢沢もまた頬を膨らませながらも赤外線ポートを蝦夷の携帯に向けた。
 すぐに通信成功の合図音が鳴る。
 送られてきたアドレス情報を登録しながら蝦夷がつぶやいた。
「ほら…U-17の代表に選ばれたらツートップを組むこともあるかもしれないし…」
 逢沢がポカンと口を開ける。
「じゃ、後でメールするから。」
「うん…」
 蝦夷はスライド式の携帯を軽く振って見せ、視線を合わせないまま葉蔭の集団に戻った。
 逢沢も振り返った的場に呼ばれ、仲間たちのもとへ走った。
「駆くん、アイツ何だって?」
 試合中の蝦夷の発言を聞いた的場が不信感を隠さず訊ねる。
「アドレス交換しよう、って」
「ハァ?」
 怪訝な顔をする的場とは対照的に、逢沢は腹の底から湧いてきた気泡のような笑いに頬を緩ました。

 そして、葉蔭学院の輪の中でも、また。
作品名:14 作家名:3丁目