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再会

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 岩城に語られた話を、聞いて感じた感動を、そのまま傑に伝えたくて記憶と言葉を必死にたぐり寄せたけど拙い気がした。直接会わせることができたらいいのに。きっと傑も同じ風にワクワクする。
「でさ、この間は“まともな大会にも出られない”って言われたけど、そんなことないんだぜ。
 お前がキレてさっさと帰っちまうから言いそびれたけど、校内試合で公認クラブに勝てば、俺たち同好会の方が学校の代表として大会に出られるんだ。
 来年は俺が絶対にチームを大会に連れてく。それで、お前のいる鎌学とだって戦える。」
 傑と別々のユニフォームを着てピッチに立つのを想像したらそれがどうしても叶えたい夢のように思えて、蛍光灯しかない病院の天井を見上げて目を瞑った。
 大会で実績を作ればまた代表候補にも呼ばれるかもしれない。そうしたら、今度はもっと上手くやろう。この間会った時に傑を怒らせたのは、突然同好会に入るなんて言ったからだけではないように思われた。落ち着いて話を聞いてもらえなかったのは、何度も蒸し返しては叱られている合宿を飛び出した一件で「荒木=わがまま」みたいな図式が傑の中に根づいているような気がした。否定はできないが心外である。
「お前にだって勝ってやる。」
 膝の上で拳を作った。
 言ってやった。
 そして傑が「負けない」と応じて固く握手でもして仲直り。のつもりだった。
「…………」
 力強い宣言の余韻も消えようかという頃、
「……おい、もう喋っていいんだぜ?っていうか何か言えよ。」
 黙ってろと言ったのは俺だ。俺だが、ここは空気を読んで口を開くところだろう。律儀に黙っているにしたって程がある。
 まさか寝てるんじゃないだろうな。こっちが必死で話をしたのに。
 その時、
「アイザワさーん」
 声につられて会計窓口を見る。担当の職員が何度も“アイザワさん”を呼びながらキョロキョロしている。
「おい、お前呼ばれたんじゃねえの?」
 背後では立つ気配がなくて、いよいよ寝ているのではないかと思って振り返った。でも、
「傑?」
 そこには誰もいなかった。ベンチには傑も、他の誰の姿もない。空っぽだった。
 古い椅子が軋んだ音も、すぐ後ろで人が立ったのもわからなかった。
 自分の話にそんなに夢中になっていただろうか。ずっと傑のことを気にし続けていたのに、いなくなったことにも気づかない程?
 待合室を見渡しても傑の姿はなかった。代わりに会計窓口から離れた席でよぼよぼの老人がゆっくり立ち上がって、付き添いの女性と一緒に“アイザワさん”を探していた窓口へ歩いていった。
 胸がざわざわして落ち着かなくなる。声を張り上げて名前を呼ぶこともできない待合室周辺を歩き回ってみたが、結局傑を見つけることはできなかった。

 俺が傑の行方を知ったのはその日の昼のことだ。
 鎌倉の近くで今朝の登校時間帯にトラックが事故を起こし、巻き込まれた中学生が重体で救急搬送されたと噂になっていた。
 夕方のニュースで「兄の逢沢傑さんは搬送先の病院で死亡が確認された」と言っていた。搬送先が俺のいた病院と同じはずもなかった。
 すぐにはどういうことか理解ができず、呆然とテレビを見つめていたら母親に慰めるみたいに肩を抱かれた。
 両手に顔を埋めたら涙が溢れてきた。

 まだ納得がいかず、傑の携帯に電話をしたら母親が出た。
「そう、ニュースで…わざわざありがとう」
 傑の母親はすごく疲れた声をしていて、病院で傑に会ったなんて言えなかった。
 どんな顔をして会いに行けばいいのかもわからなくて葬式は断った。
「それじゃあ…」と墓の場所を教えてくれたのを震える手でメモして、実際に墓参りに行ったのはそれから三ヶ月も経ってからだった。
 冬風にさらされ続けている黒い墓石は冷たくて、当たり前ながら傑と結びつくところなど正面に刻まれた「逢沢家」という文字ぐらいなものだった。
 ここにはいない。そんな気がした。
 それでも、他のどこで傑に会っていいかわからない。傑の気配のない墓石に向かって尋ねた。
「何で俺のとこに来たんだよ。」
 病院と同じ。答えはない。
「ちゃんと最後まで聞いてたのかよ。またろくに話も聞かずいっちまったんじゃねえだろうな。ちゃんとわかってくれたのかよ。」
 目を閉じても寒々しい曇り空を仰いでも、何故だか鎌学のユニフォームを着た傑と江ノ島のユニフォームで向きあう自分は想像できなかった。
 それでも、病院で傑に会ったのが夢や勘違いとは少しも思わなかった。あれは間違いなく傑だった。
 傑は俺に、会いに来たのだ。
作品名:再会 作家名:3丁目