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【空折←砂】オペラ座の怪人パロ プロローグ

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私はファントム、醜い化け物
地獄の業火に焼かれながらも、それでも天国に憧れる 愚かな化け物




――――――――――





「イワン・カレリンを恨んでいるのか?」


暗く冷たい牢獄の中、共に受刑している仲間の一人にそう尋ねられ、俺はゆっくりと首を横に振った。
どうしてだ、と不思議そうに尋ねるそいつに、俺はにこりと笑ってこう答える。


「あいつは、俺の宝物だからだよ。」


慈しみをこめてそう言うと、俺に質問を投げかけたやつは、よく分からないという顔をして気の抜けた返事を返してきた。
何度かこういった質問を他のやつらからもされてきたけれど、俺の答えはいつだって同じで、質問してきたやつらの反応も面白いくらいにみんな同じだ。
そう、俺はイワンのことを恨んでなどいない。
ただそれだけの事実に、皆なぜか首を傾げ、そしてどこか面白くないとでも言うように不満そうな顔をする。


「……あいつを、愛しているから、だよ…。」


誰に言うでもなく、ひっそりと呟く。それに対する返事はない。
事件が起きた当初こそ、二度とヒーローには成れないという事実に落胆し、俺はイワンを責め立てた。
お前があの時俺を助けてくれていれば、俺は犯罪者になどならず、こんな場所に行く事もなかったのに、と。
けれど、そんな俺に対してイワンはボロボロと涙を流し、あの綺麗な顔をぐちゃぐちゃにさせて、ごめんなさい、ごめんなさい、とひたすら繰り返し謝った。
その時、俺は気付いてしまった。彼は俺への罪悪感に、一生囚われ続けるのだろう、と。


「…お前だって、俺を愛してくれる、だろ…?」


なぁ、イワン。懐から取り出した彼の写真に話し掛けると、写真の中のイワンは静かに微笑んでいる。
そろり、と写真に写る彼の輪郭を指でなぞると、まるで実際にイワンの肌に触れているようなそんな錯覚に陥った。
ああ、可愛い可愛い俺の大事な宝物。
今は少しだけ遠くにいるけれど、俺たちにはこのお揃いの指輪と約束があるから、そんなこと何の問題にもならない。
自分の左手薬指にはめられた金色に輝く小さな指輪にちゅっと一つ口付けをして、俺はイワンを思い浮かべて小さく笑った。


「なぁ…おい聞いたか?あのスカイハイと折紙サイクロンの噂、」
「なんだよ、それ?」
「実はさ…」


その噂は、キングオブヒーローことスカイハイと折紙サイクロンの二人がどうやら付き合っているらしい、というものだった。
浮いた話の少ないこの場所では、そんな話すら面白がってみんなが騒ぎ立てる。
俺ずっと怪しいと思ってたんだよだの、キングオブヒーローもゲイなんだなだの。
ニヤニヤと下卑た表情を浮かべるやつらに、たかが週刊誌のゴシップレベルの情報だろう、みんなして騒ぎ立てるなんて馬鹿馬鹿しい、と一蹴する。
けれど、どこかで心にモヤモヤしたものが引っ掛かる。
もし、もしもその噂が、本当だとしたら?もしもイワンが俺を忘れて、スカイハイとの恋を選んだのだとしたら?


「イワンが…俺を、裏切る……?」


俺は今この閉ざされた空間に閉じ込められていて、例えイワンが誰かに恋をしていたとしても、俺がそれを知る術はない。
なんだか嫌な予感がして、ごぽりと喉元まで胃の中の内容物がせり上がってくるような嘔吐感を感じた。
ざわざわと繰り返される情報が、さらに俺の気分を悪くさせていく。
イワンがそんなことするはずがない、という気持ちと、でも今この状況は少なからずイワンのせいだ、という気持ちでグラグラと揺れる。


「…ッ……、」


嘘だ、そんなことあっていいはずがない。イワンが、俺以外の誰かを選ぶなんて、俺を忘れる、なんて。
ギリギリと唇を噛み締め、仲間たちが寝静まってしまった後も、俺はただ一人かすかに漏れる光が揺れるのを目で追っていた。
イワン、と呟き懐から彼の写真を取り出すと、その写真の中でイワンはいつもと同じように笑っていた。
震える指先で、そっと彼の輪郭をなぞる。パタパタ、と水滴がその上に落ちていく。

そうして、その夜、俺は何かに取り付かれたように、この暗く冷たい牢獄を抜け出した。
 





( 俺の宝物に、手を、だすな )






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