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Shadow of HERO 2

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犯罪者というのは、どうしてこうも逃げ回るものなのだろう。
逃げた犯人が捕まる光景はヒーローTVでうんと流れているのに、それでも犯罪も逃走犯も一行に減ることはない。今追い掛けている犯人もそうだ、バーナビーの能力を考えれば走ったところで無駄なのは明白なのに止まろうしない。もっとも、罠の可能性があるのでこっちも能力を使えない状況ではあるのだが。

『バーナビー、そのまま行くと倉庫で行き止まりよ。そこまで一定の距離を保って追い掛けて。』
「了解。」

アニエスからの通信に頷いて、軽い運動感覚で走り続ける。
倉庫の奥まで行くと犯人が立ち止り、こちらに振り向いた。

「いいよなぁ、お前は。皆に持てはやされてよ。こっちはショボイ能力なのにNEXTだからって差別されていんのになぁ…不公平じゃねぇか。」
「………」

こうやって妬まれるのは初めてではないので、一々構っていられない。無視して捕らえようと彼に近付く。

「だから―――お前なんか死んじまえ!!」
「!!」

しまった、と思った時にはすでに遅かった。男が懐からスイッチを取り出して押すと、辺りに破裂音と煙幕が広がった。

(どこに行った!?)

これはあくまでかく乱用だ、殺傷力はない。となるともう1つ、爆弾のスイッチがあるはずである。それを押される前に男を捕らえなければならないが、煙幕が邪魔をする。あまりの視界の悪さに、ヒーロースーツの機能も役に立たない。最悪の事態が頭をよぎり、焦りが生まれてくる。

「ぐはっ!」
「!?」

短い悲鳴が聞こえた。状況を把握できずにいると、今度はどこかの壁が壊される音がした。空気の通り道ができたことにより、疎開が晴れていく。全てが晴れきる前に、己の足元に気絶した犯人が投げ出された。

『―――能力を発動しとけ。その方がお前が捕まえたように見える。』
「!?誰だ!?』

機械を通した低い声に前を見ると、煙の中に去ろうとしている人陰があった。姿ははっきりと見えないが、ライトグリーンの光りが見える。

「待て!」

その人物に腕を伸ばしたが、指が触れる前に消え去ってしまった。


shadow od HERO 2


あの人物の声はボイスチェンジャーで変換された機械的なものだった。そして、あのライトグリーンの光。あの人物はヒーロースーツを着ていたに違いない。
そこまで考えて浮かぶのは、己のヒーロースーツの輝きだ。あれも能力発動時、色は違うが光ようになっている。ヒーロースーツは光らなければいけないものではないので、妙な一致だ。

(斉藤さんなら何か知っているかもしれないな。)

報告書を提出したら、彼に尋ねてみなければ。放っておいてもよさそうだが、何が己の追うものと繋がるか判らない。

「あっ!」
「!」
「よ、また会ったな!」

(なんでこの人が…)

二度と会いたくないし会わないだろうと思っていた人物に遭遇して、内心で舌打ちした。見過ごせばいいものをまた馴れ馴れしく挨拶してきて、迷惑この上ない。バーナビーは半ば八つ当たりを込めて、なげやりに言葉を紡いだ。

「どうしてあなたはしょっ中ここをうろついてるんですか。この辺はヒーロースーツの研究室ですよ。」
「あー…そりゃ、俺はここの所属だからな。人体には結構詳しいんだよ。」
「…オバサンが?嘘ですね、この間まであなたを目にしたことはありませんでした。」

使う張本人としてバーナビーはよくこの辺りを出入りしているため、スタッフ全員の顔ぐらいは分かっている。こんな暑苦しい女性、前からいたらすでに知っていたはずだ。
彼女の妙な言い分に少し頭が冷えてくる。

「いやマジだって!基本裏方だし外出てることも多いから、会わなかっただけ!斉藤さんにも聞いてみりゃ分かるよ。」
「………」

どうにも怪しい。別に変なことを言ってるわけではないのに、この言葉の詰まらせ方…何か引っかかる。それを暴いたところで下らないことのような気がするのだが、人間隠し事をされるといい気がしないものだ。
虎徹はそれ以上何も言わない。彼女が黙ったことで、沈黙が訪れる。バーナビーは平気だったのだが、向こうが耐えられなかったのか、両手を上げて「降参!」と叫んできた。

「分かったよ、ホントのことを言う。―――実は俺、NEXTなんだよ、お前と同じ肉体強化系の。それで、ヒーロースーツの開発に必要なデータを提供してんの。」
「あなたが…?でも能力が似てても性別が違うのでは数値に差が出ますよね。」
「雛型を作るのに使ってるらしい。お前が試すのは最終段階で、そこで細かい所を修正してくんだとさ。そうすりゃ多忙なバニーちゃんを捕まえる手間が省けるだろ?それとNEXT自体貴重な存在だから、数が欲しいんだと。最初にそれを言わなかったのは…なんだ、『あなたのデータなんて参考になるんですか?』とか何とか言われて馬鹿にされそうだったからよ。」

わざわざバーナビーの物真似までして説明する虎徹に、バーナビーは呆れてため息しか吐けなかった。予想通り…いや、それ以上に下らない理由だった。ヒーロースーツ開発の裏側は興味深かったのに、台無しだ。一応彼女も協力者になるのだろうが、感謝の念がちっとも湧かない。
それよりも、言及しなければならないことが1つ。

「何ですか、今の『バニーちゃん』って。」
「お前のヒーロースーツ、耳のとこが長くて兎っぽいだろ?だからバニーちゃん。」
「僕の名前はバーナビーです!成人した男性に向かって失礼だと思わないんですか。」
「それ言ったらバニーちゃんだって、俺のこと『オバサン』呼びだろ。レディに対して失礼じゃね?」
「だからっ……!」


PDAが事件を告げた。2回目の招集なんてウンザリするが、仕方がない。

(結局、斉藤さんに聞けてないし、この人に会うとロクなことがない!)

虎徹を睨みつけるが、彼女はどこ吹く風で「行かねぇと、それこそポイント稼げねぇぞ」と言ってくる。そんなこと分かっているので、何も言わず彼女に背を向けた。駆け出そうとした己に向かって、声が掛かる。

「周り、ちゃんと見ろよ。」

この間あれだけ言って、まだ理想論を押し付けてくるのか。

「人に押し付けないで、あなたがヒーローになれば良かったでしょう!」

それだけ吐き捨てて、立ち去った。
だからその後、彼女がどんな表情をしたか知らない。

「…なれたら良かったんだけどな。」

虎徹の声は誰に聞かれることもなく、空気の中に消えた。
作品名:Shadow of HERO 2 作家名:クラウン