二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

思春期

INDEX|1ページ/1ページ|

 
部活が終わり日も暮れて、いざ帰ろうとしたところでサエに声をかけられた。提出期限が月曜日までの数学の課題を泊まりでやろう、と言ったサエがあんまりにみんなを避けていたから、断る気も無くなって、他のテニス部員と別れて、帰路を歩いて、サエが何を考えているのか模索していたら家に着いた。母親に一言サエが泊まるからと告げて、さっさと自室に引き上げる。晩ご飯はコンビニで買ったおにぎり3つとコーヒー牛乳にした。
「俺、この間知ったんだけど、今はコーヒー牛乳って表示使えないんだってな」
 乱暴に紙パックを開けて隙間にストローを差し込んだ。鞄を床に置いて断りもなしにベッドに座ったサエは、枕元に置いてあるアヒルの形をした目覚まし時計を触って俺の方を見もせずに答える。
「使えなくなったの、大分前だろ。亮知らなかったのかよ」
 けらけらとサエが笑う。目覚まし時計がベッドのスプリングで跳ねる。
「なんだよ、淳も知らなかったよ…。あと、コーヒーミルクって表示はいいらしい」
 言い方変えただけだよなあと笑いながら言ったサエは、全身の力を抜くようにしてベッドに倒れ込んだ。ぼすんという決して小さくはない音が響く。ストローを口に加えてサエを見ると、眠そうに目を細めていた。乱暴に横になったせいで、乱れた前髪がサエの顔を少しだけ隠す。
「寝そう」
 サエは目をぎゅうと思い切りつぶって、手の甲で目蓋のあたりを擦った。目に傷がつく、よりも先に、睫毛が取れたら嫌だ、と思う。数回まばたきをしたサエは、本当にそのまま寝てしまいそうで、俺は眉を顰めた。
「寝たらシーツごと落とすからな。腹へってないの?」
「シーツはくれるんだ」
 緩慢な仕草で上半身だけを起こし、床に置いたバッグをそのまま引き寄せたサエは、中からファンタを取りだした。サエはファンタしか買わなかった。コンビニで、あとで後悔しても何もないからな、とその横顔を見ながら言ったけど、サエはにやりと笑うだけだった。そのまま長い指でリングプルを引っかけて蓋を開ける。ぷしゅ、と小さな音がした。
「俺さ、ファンタはオレンジしか飲みたくないんだ」
 蓋を開けて、飲むそぶりさえ見せずに、サエが呟く。
「突然、何? じゃあずっとオレンジ飲んでればいいじゃん」
 憂鬱そうな、どこか面倒くさそうな表情をしたまま、サエはファンタを持っている手を静かに揺らす。炭酸が抜けそう、と小さく思った。それがさ、とサエは続ける。
「この間、バネと喧嘩したんだけど。このことで。でもこれが原因ってわけじゃなくて…元々ぴりぴりしててさあ。あいつグレープしか飲まないんだ。昔から。だから、なんか、いらいらしてるときに、そういう小さいこととか、気になるだろ。それで…ああ、何言ってるかわからなくなってきた」
 要領を得ない喋りを止めて、参ったとでも言うようにサエが深く溜息をついた。そのままベッドにファンタを投げ出しそうな表情だったので、ベッドに近づいてファンタを奪った。サエは何も言わなかった。わざとらしく肩をすくめて、後ろに手をつく。
「今日、普通に喋ってたよな」
 じいっと受け取ったそれを見つめる。成分表示を眺めれば見慣れないカタカナの香料や材料の名前が並んでいた。
「喋ってたけど、なんとなく、あいつまだ怒ってるよ。俺も、ちょっと怒ってるかな」
「ファンタごときで?」
「別にこのことだけで怒ってるわけじゃないし」
 長くなりそうだとベッドに背中を預ける。これでサエの表情は見なくてすむし、ファンタも床に置いたっていい。
「そんなこと言ってるけど、バネのこと怒らせたいだけなんじゃないの? 数学ならバネの方が得意だってみんな知ってる。それなのに、サエ、みんなの前で俺のこと誘うとか。わざと?」
 サエが黙る。図星を突かれた静けさなのか、言葉を考え込んでいるだけなのか、わからなかった。
「それも、あるよなあ」
「あ、そう」
 余裕のない、というよりは気力を無くしたような声色だった。
「第一、俺とバネって、性格以前の問題で合わないんだよな。でも嫌いってわけじゃないから、一緒にいても別に平気なんだけど。それでも結局合わないから、喧嘩とか、慣れないことになると、どうしたらいいかわからないっていうか」
 国語は得意なんじゃなかったの? といまだ混乱しているサエに吐きかけてもよかったけど、やめた。その表情を覗き込んでもよかったし、立ち上がって横に座ってもよかった。でもきっと嫌がるんだろうな、と思う。
「でもそんなのいまさらだろ。そんなこと言ってたら、俺はまずファンタが嫌いなんだけど」
 と、言いながら一口だけファンタを飲んだ。味よりも先にきつい香りが鼻を通る。炭酸がびりびりと口の中を過ぎて、食道を通過して胃にたどり着く感覚が気持ち悪くて、思わず腹を押さえた。やっぱり無理、と息をつく。
「ファンタだけじゃないよ。俺は女の子なら長い髪の子の方が好きだけどあいつは短い方がいいって言うし、身長も小さい方が好きだけどあっちは身長高い方が好きとか言って、あとローソンよりもセブンだし、PSPじゃなくてDSだしFFよりドラクエだし」
「そんなのそれぞれじゃん…」
 大体俺たちまずみんなしてゲームより海の方が好きだろう。そのままべらべらと喋りつづけそうな声を、少し大きめの声で遮る。
「とりあえず合わない。テニスくらいだよ」
 なんで友達なんだかわかんないよなあ、と間延びした声が聞こえる。サエの揺れる足が見えた。
「どうせすぐ仲直りするんだろ」
「なんで」
 サエの手が伸びてきて、無遠慮に俺の長い髪を掴む。そのまま髪を指で梳く様子を横目で見て、乱暴に手を振り払う。
「ファンタって見た目と香り変えてるだけで味は同じなんだと」
作品名:思春期 作家名:サユ子