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灯千鶴/加築せらの
灯千鶴/加築せらの
novelistID. 2063
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Cry, then be you.

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Cry, then be you.



不意に近づく人影に、背中に隠した素直な声は殊勝さを帯びていた。

「悪ぃ、荒木」
「気にすんな。そんな時だってあるだろ」

この世代の至宝と謳われる逢沢傑にだって、泣きたくなる時のひとつもあっていい。
だって俺たちはまだ、中学生なんだから。

だけどその身に期待と重圧を背負って、負い続けてなお潰れることの無かった傑には、とうとう耐えられないことが起きた今に至っても、自己の崩壊を許容して良いのかどうかさえ分からないらしかった。

「俺、泣いてもいいのかな。」
「良いに決まってんだろ。泣いちゃいけねーなら、その涙は何のためにあるんだって話だろ」
「……眼球を乾燥から保護するため?」
「今そういうボケ要らねーから!」

全く、コイツは仕方ない。
器用そうに振る舞って、年の割には人間出来てるよな、なんて大人からも同年代からも云われる、そのくせ人間として大事な部分がコレだ。
まぁ、傑が過ごしてきた環境を思えば同情と苦笑の余地はあるが。

仕方がないから、木立と俺の影に隠して泣ける空間を作ってやる。
泣いて良いんだと許可を出したって、人の『憧れ』であり続けたこの男は、きっと人に涙を晒すことを拒むから。
……俺なら良いのか、と思って心臓が弾んだことは否めない。

「……荒木、お前は、俺のこと弱いと思うか?」
「さぁな。つか、なんでそんなこと訊く?」
「だって、俺、こんなに情けない……」
「サッカー絡みで泣いたぐらいでか? だったらピッチに強い奴なんかいねーよ。誰だって一度くらい、夢のためにゃ泣かされるもんだ、って偉い人が言ってたろ」
「誰だよ」
「俺の頭で人名まで覚えてると思うなよ」
「胸張って言うことか!」

――そう、泣いたっていいんだ。
傑がずっと掲げ続けた『弟と一緒にワールドカップを手にする』という夢が、弟がピッチを去ったことで叶わなくなった今くらい。

泣いたって、俺も、誰も、お前に幻滅したりしない。
ましてやお前を責めやしねぇんだ。
だから、泣け泣け、好きなだけ。
自分の『作り方』を知ってるお前は、きっと明日になったら、また王の顔をしてピッチに君臨できるんだから。

肩の服地からじわじわと濡れ広がっていくのを感じながら、首筋へそっとキスを落とす。

キスマークで主張してみるほど子供じゃない。
何もせずに慰めてやれるほど大人じゃない。
お前が弱味を見せる相手として認めて貰えてるのに、言葉に出して告白も出来ない。
そんな俺だって充分、情けないだろ? と笑えば「じゃあ俺たち、お似合いかな」と小さな声が返ってきた。




Fin.


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傑荒へのお題:背中にかくした素直な声/「泣いてもいいのかな。」/キスマークで主張してみる

ツイッタでお題が出ていたので傑荒ってみた。
お題メーカー作った方とろびんちゃんに感謝!^^

11.06.08 加築せらの 拝