不透明の死にたがり
苦しいですかと阿近は尋ねた。喉元を締め上げる白い指先を撫でて、生理的に浮かんだ涙に瞳を潤ませながら潰れた声で阿近は尋ねた。白い手の持ち主は是とも否とも答えはしなかったが、殺す気はないようだと言うことはわかっていた。もし最初から殺す気でいたのなら、こんな風に自分が生きているはずはないと阿近は知っていたので、ことさら恐怖も抱かなかった。いたぶりながら殺す気ならばもっとえげつない方法をする目の前の白い男は、感情の無い金色の目で阿近を見下ろしていた。まるで反応を冷静に見られているような。けれども、それはきっと阿近自身に対してだけではない。苦しいですか、と阿近は聞いた。青い髪の男は何も答えないので阿近は苦笑した。
「何を笑っている。」
不機嫌そうにゆがんだ口が言葉を吐いた。その言葉に声は返さず、綺麗に阿近は笑みを作る。大概自分もいかれていると随分前から知っていはいたが、ここまで来るとまともな部分を探すほうが難しかった。首を絞められて喜ぶような趣味は持ち合わせていないがそういうのを悪くないと思う自分がいる。そして、阿近の首を絞めながら、それこそ、決して殺すことはできない強さで、何かを確かめるようにしている男の頭の中を模索すると、優越感にも似た感情がしばし湧きあがるのだ。苦しいですかとしか、阿近は尋ねない。苦しくはないんだろう、と阿近は考える。第一首を絞められているのは阿近の方であって、男ではない。奇抜な恰好の男の力は絶対的なものではなく、だからこそ阿近はそれを振りほどこうとは思わなかった。
(確かめている。)
苦しさに目からついに涙がこぼれた。悲しいのかネと白々しくも首を絞める男が尋ねる。
「ええ、悲しいです。」
阿近が静かに応えると男はついに首から手を放して、まるで何事もなかったかのように阿近から離れていった。無感情に見える金色の瞳が猫のように細まり、私は時々、無性に君を殺したくなるヨと言われ、なら殺してみたらどうですかと答える自分は、とうの昔にまともでいるのを放棄していたのだと、首を絞められたあとに残る痣をたどるたびに思い出した。