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敬愛のキス

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ディメンダーのいないアズカバンは以前よりは空気がいい。怯えたように背を丸める看守が、アーサーを檻の前に通した。
「正気を保っていて幸いだ。」
用意されたパイプ椅子に座って言いながらアーサーはルシウスを眺めた。少し痩せたようだし生白い肌は血色もよくない。
「例のあの方がディメンダーを召集したおかげでね。」
「裏切り者を始末できないで残念だろうな。」
ルシウスは口元を端正に吊り上げた。
「裏切り者などととんでもない。」
「あの人にそこまで忠誠を誓う情熱があんたにあったとはね。」
ルシウスは肩を竦めた。帝王を適当に利用してやるつもりなのは端からわかっていて、
今は多少の失敗なのだろうが、頭の中ではどちらに転んでも起き上がる寸法で一杯だろう。
「[選ばれし者]にも賭けて、こちらに恩を売らないか?」
「聞いてやろう。」
優雅に足を組み替える様子を見て、まるでこちらが囚人だと思う。
ヴィーラの血でも引いているのかと尋ねたら般若の如く怒るだろうが、ただの人間なら尚恐ろしい。
「……他にお家に何か隠してないだろうね、ミスター?」
白く長い指があごを撫でた。
「書斎の本棚を覗いたか?君への魅惑的なクリスマスプレゼントが置きっぱなしだ。」
「それは毛むくじゃらのかわいい本か?ずいぶんジャレられたよ。」
「栞代わりに口に君の写真を突っ込んでおいた。
生き物というのは飼い主を忘れないものだな。」
「その写真ならよだれまみれの穴だらけで見つけたよ。あんたの愛情には開いた口がふさがらないね。」
彼は非常に外向的な微笑みを浮かべる。愛情に応えて右手をかみ砕かれるべきだったとその顔が言っていた。
「もう少し私の役に立つ君の一人息子の所有物の話はどうだ。」
「あの底辺に限りなく近いダメ息子か。」
「ナルシッサに育児の責任を押し付けるのはよくない。」
他人のことのような口ぶりに眉をしかめる。
「私はあの子どもに感知していないというだけだ。彼女だけに責任があるとは一言も言っていない。
…あの方があれを使っていると思っているのか。」
ぽつりと呟いた言葉にとりあえず彼は今は萱の外なのかとわかる。
「不思議なことではないだろう。君やナルシッサを人質に。投獄は痛手なことだな、ミスター・スリザリン。」
からかう言葉にルシウスが動じることはない。
「君と違い私の人生は自助努力によりうまくいくようにできている。」
「君の命は最悪の牢獄が守るからな。」
「それだけと思うか?」
「私は帝王失脚が一番と思うがな。」
策は多々あると仄めかす言葉にやんわりと釘を刺した。マグル嫌いも純血主義も嘘ではないが、
そのための行動は全て保身の自助努力。金持ちの脳みそはうまく出来ている。
「そのために考え得る坊ちゃんのいたずらを教えていただけるとありがたい。」
「知っているのは居間の引き出しの君へのバースデープレゼントだけだよ。
気に入ってくれると思うがね、敬愛なるミスターグリフィン?」
「触っただけで体中に心臓が震え上がるくらい情熱的な湿疹ができるカフスボタンのことか?」
今も部下がセント・マンゴに通院していることを思い溜息をつく。
「君の掌に敬愛のキスを落とすためだ。」
ルシウスが立ち上がり格子の隙間から手を出した。
「お気に召さないか?」
「お腹一杯ですとも不粋と邪縁のミスター・スリザリン。」
アーサーも立ち上がりその指先にキスをした。
「奇遇だな、無知と無謀のミスター・グリフィンドール。」
ルシウスが静かに手を引く。自信満々の笑みに、アーサーは苦笑で返した。

作品名:敬愛のキス 作家名:まりみ