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先手必勝

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初めて出会ったのは入学式のとき。
誰が生き残るか、どうやったら死なずにすむか。
アンサー=純血はスリザリンへ行ってそのままデスイーターに。
闇の帝王には逆らうな。ヘマだけはするな。そうすれば、未来だけは安泰だ。
ただ現実には、組み分け帽子は毎年均等に生徒を振り分け続け、先祖代々純血育ちのアーサーは本人の望みどおりグリフィンドールに入学した。レイヴンクロウの頭のお堅い連中とはつるめない。ハッフルパフは安穏すぎる。それでもスリザリンに行くよりはマシだ。
そう思いながら列を待つ途中、肩まで伸びたプラチナブロンドが目を焼いた。どこの空き教室から引っ張り出されてきたとも知れないボロ椅子が、まるで一等高級なレストランの座席に変化させられたのかと思うような、自信満々な立ち振る舞い。そしてその無駄の無い動作すら無駄であったかのように一瞬で、組み分け帽子は「スリザリン!」と大きく叫ぶ。帽子をかぶっている瞬間など、瞬きより短い。
「あたりまえだろ、奴はマルフォイだ」
こそこそと噂話がそうささやく。 純血の家柄同士、その名前は良く知っている。ただ、貧乏子沢山のウィーズリー家と正に貴族のマルフォイ家ではとにかくそりが合わない。同じ年頃の子がいるというのはなんとなく聞いていたが、顔も形も、名前すら知らなかった。
「ウィーズリー、アーサー」
呼ばれ、はっとして壇上に上がり、椅子に座る。
「また……ウィーズリーか。これで最後だろうな?」
そういわれ、アーサーは苦笑した。残念ながらアーサーは長男だ。
「まあいい。お前らの寮は決まっている」
「ああ、ちょっとまってくれ。スリザリンに行けば死なずに済むか?」
帽子をさえぎり、そう念じると、帽子はどうやらくしゃりと眉を寄せたようだった。
「死ぬときは死ぬ」
「なるほど?」
「願ってもないことを口に出すものでない」
グリフィンドール、と高々と帽子が宣言する。ふと、スリザリンに目をやると、かのマルフォイ家時期当主が剣呑な目でこちらを見ていた。普通こういう場合、目が合うと、彼は視線をはずさなければならないのだろう。しかし彼はなぜか上級生を取り巻き化しながら唇の端を上げた。

これを、運命と呼ぶのは簡単だ。

実際には、他の生徒よりも若干長めの帽子との対談に、この高貴なるお坊ちゃんは嘲笑を向けていたらしい。とあとから本人に聞いた。
「お前がウィーズリーであるかぎり、なにを悩むことがあったんだ」
そうわずかに微笑んで見せた彼の高貴なる持論が崩されるのは6年の秋。
かのブラック家の御曹司が、グリフィンドールに入学した年である。
絶対に怒るので、本人には絶対に言わないが、彼がポッター一味を目の敵にする理由の一部には、自分の持論を崩された、ということがあるのだろう。
「はーい、はーいはい、お坊ちゃん方?サー・スリザリンのお通りだからちょっと離れようか」
スネイプの胸倉を掴んでいる、ジェームズの手をはずさせる。
「先輩、邪魔しないでくれません?」
6つ年下の下級生、ジェームズ・ポッターとその一味。その首謀者はわざとらしく頬を膨らませアーサーを仰ぎ見た。12歳と17歳では身長にかなりの差がある。
「なあに言ってんだ。今に先生がみえて罰則だぞ。俺たちがかまってやる今年一杯が花だと思え。」
なあ、と振り返ったさきのルシウスは、床に転がったカフスを素晴らしい柔軟性で拾い上げ、ふいとソッポを向いた後輩に手渡す。カフスボタンなどでは、彼にひざを折らせることなどできない。
「喧嘩の理由は?」
「負けない自信がありました」
それは理由か?とアーサーは首を傾げたが、ルシウスは無表情のまま。
「獅子寮などに後れを取るな」
「はい、マルフォイ先輩」
「寮に帰りなさい。おい、アーサー。行くぞ。」
「行くぞ、っておい片づけやら減点やら……」
「面倒くさい」
「面倒、ってお前……」
人を呼びつけた割には手もひいてくれず、アーサーはルシウスの後を追う。 角を曲がったころに、グリフィンドールの女史の甲高い怒鳴り声が響く。
「あーあー、だから言ったのに…」
呟くアーサーは、ふと、おなじ当事者であったはずの子どもが一人、あの場に居ないことに気づく。
「なあ、ルシウス?」
「グリフィンドールに後れを取っている場合ではなかったのでな」
やっぱりわざとですか、とアーサーは眉を寄せた。
「アーサー。前に組み分けの儀式の話をしていただろう」
これだからスリザリンは卑怯で・・・…とつぶやいていたところに、唐突に振ってきた話題。
「ああ、あの帽子との話し合いの話?」
「先手必勝だよ、アーサー」
「……申し訳ないんだけど、サー?話が見えない」
「死にたくなければ、先手を打たなければならない」



「死にたくなきゃ、先手を打て、だったか?」
魔法で縛り上げられたルシウスに杖を突きつけながら、アーサーは微笑んだ。
「だから打っただろう。わざわざ君が見張っているときに蛇をけしかけたじゃないか。いや、正確にはハリー・ポッターを?」
「でも、私は死んでないよ、ルシウス」
「惜しいところまではいったんだ。まずまず上出来と言うことでどうだね」
唇を持ち上げるしぐさに、目が笑っていない。
「あんたは持論を崩されるのが嫌いだったな。シリウスを毛嫌いするくらいに。 ああ、だからシリウスでハリーを呼び出して、ハリーでシリウスを連れ出したのか。」
アーサーはわずかに声を落とす。彼らをアズカバンに連れてゆくための役人達や、調査委員たちが部屋に入ってきていたが、まだブラックの友人達は部屋の隅でうなだれている。
「先手必勝だよ、アーサー」
「俺はアンタの後手に後手にまわってたけど、これで俺の勝ちだ」
「どうだろうな。闇の帝王がある限り、まだリターンマッチはあるさ」
縄を引かれ立ち上がる。それでもなお、優雅に見えるのはいいかげんに主観が入りすぎているのだろう。
「ただ誤算があるとしたら……」
ルシウスの髪が頬に掛かり、振り返る。
「組み分け帽子との対談は、少しインパクトが強かった」
「先手必勝だ」
「…………」
ルシウスはそれ以上返事を返さず、ただ唇の端をわずかに持ち上げた。

作品名:先手必勝 作家名:まりみ