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貴女以外もう要らない

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一体幾度時を巻き戻したのだろう。
 もう数えるのも諦めてしまったほどの繰り返しの中で、貴女はどんな道を選んでも助からなかった。助けられなかった。
 その中で私は思ってしまった。
 ――仲間なんてもう要らない。
 いいえ、要らないどころじゃない。むしろ、あんな『魔法少女達』の仲間などが存在しているからこそ、貴女を救うことが出来ないのではないかと。私はそう思ってしまった。
 私にはもう何も要らない。
 ただ貴女だけが居れば良い。貴女さえ救われれば良い。
 例え悪鬼羅刹の如き所業と言われようとも、私の決意は揺るがない。
『全てを犠牲にして貴女を救ってみせる』と私は言葉を口にした。

「初めまして、あなた美樹さやかさんよね?」と私は声をかけた。以前の人見知りが激しかった私からは考えつかないような行動だ。まあ、この美樹さやかは私のそんな顔は知らないことになっているけれど。
「そうだけど、あなた誰? 私早く行きたい所があるんだけど」と彼女は言った。この女に想い人の男が居ることはもうとうに知っている。その男が事故で病院に根付いてる事だって。でもそんなことは私にとってどうでもいい些事だ。
「それほど大した用じゃないんだけど」
「何かの勧誘とか? 悪いけど忙しいからそういうのは間に合ってるから」
「いいえ、あなたの大切なお友達のために、ちょっと死んでもらおうと思って」
 私がそう告げたら彼女は一瞬呆然とした顔をしたが、考える時間は与えてやらない。私は隠し持っていた砂時計の砂の落下を止めて、私以外の全ての時を止めた。
「さようなら、美樹さやかさん。あなたは誰に殺されたかも分からないでしょうけど」
 私はそれだけを告げると、オートマチックの拳銃の照準を彼女に合わせ、安全装置を外して頭部と胸部に向けてそれぞれ2発ずつ引き金を引いた。それから時を止めたまま、怪しまれない程度の場所にまで距離を取る。大丈夫。誰にも見られてはいないはず。それから砂時計の砂の停滞を解き放った。
 人が倒れる音がした後、その場の異変に気づいたのだろう。駆けつけてきたと思しき人々の悲鳴が聞こえてきたが、私はもう用がなくなった場所を後にした。
『まずは、一人目』

「こんにちは。初めまして。あなた佐倉杏子さんよね」と私が声をかけると、彼女はそこのコンビニで買ってきたのだろうか、スナック菓子を頬張りながら。
「んだ? テメーは確か……アタシの縄張りに踏み込んできてどういうつもりだ」と彼女は言った。彼女は私が魔法少女として秩序を守る街とは別の街を縄張りにしている魔法少女だ。これまでに何度かこちらの街にちょっかいを出してきては邪魔をしたり余計な事ばかりしてきてくれている。
「いえ、今日はちょっと佐倉さんに用事があって」
「そんでわざわざこっちまで来たってのかい、いい度胸だな。自分のシマを荒らされたお返しに逆にアタシのシマを荒そうって腹かい?」この人はこういう人だとは知っていた。最初からこういう態度で出てくれればこっちも気が楽だ。もとより罪悪感なんてないけれど。
「いいえ、そんなつもりはないの」私は続ける。
「ただ、私のたった一人の大切な友達のために佐倉さんにちょっと死んでもらおうと思って」
 そう言うと彼女は槍を持って身構えようとしたがもう遅い、悠長に付き合ってあげるつもりはない。私は砂時計で時を止めると、時限爆弾のタイマーを0.1秒にセットして彼女の前に置いた。
「さようなら佐倉杏子さん。あなたは本当に最初から最後まで傍迷惑なだけの人だったわ」
 私は爆発に巻き込まれない程度に距離をとって、時の流れを元に戻した。爆弾が炸裂して、火薬の硝煙の匂いと共に、血と排泄物と肉の焦げる臭いが漂ってきた。私は人が集まる前にもう一度時を止めてその場から立ち去った。

「相談って何かしら?」と口にしたのは巴マミさん。彼女は私よりもずっと先に魔法少女になった。私も繰り返す時間の中で、彼女に助けられたり親身にして貰ったりしたことは数えきれない。――でも。
「マミさんにはちゃんと話したほうがいいかもしれませんね」
「何かしら? 気に病んでいることがあるのなら何でも言っていいわよ」と優しく微笑んでくれる彼女。けれど私は知っている、この人は私がキュゥべえ、いいえ、インキュベーターの企みを話して説得しようとしても本気にしてもらえなかった。けれど少なくとも、この一連の事件の中では一番『マシ』な人だったと思う。だから話しておく。
 そして、私はまた失望することになった。こうなることは分かっていたのに。失望したということは、どこかにまだ希望が残っていたということだろうか。もしくは、ワルプルギスの夜を倒してまどかを守るの唯一の仲間になってくれるかもしれないという淡い期待があったのか。
「悪いけど、ちょっとにわかには信じられないお話ね」
「――そうですか」その瞬間、私の覚悟は決まった。
 流れ落ちる砂時計の砂を止める。そうすることによって私以外の全ての世界も止まる。これが私が魔法少女として持っている唯一にして最強の魔法。
「さようならマミさん。あなたにだけは、ほんの少し悪いことをすると思うわ」「だけど」仕方がないからという思いを胸にして、私は両手に拳銃を構え、彼女の頭から胸を通って内臓までの身体的重要部位が詰まっている部分に対して引き金を引きまくった。

これで全てが終わった。でも、まだワルプルギスの夜が残っている。インキュベーターの動きも油断出来ない。それでもまどかを守るためなら、私は何にだってなる。死後この身が地獄の炎に永遠に灼かれることになっても、私には後悔はない。まどか、貴女が、私のたった一人の本当に大切な友達なのだから。
作品名:貴女以外もう要らない 作家名:紋世