spumoni
「うおぉい、アンタ、またやってんのかぁ」
血まみれの哀れな男の襟元を掴み上げている男――XANXUSは血走った眼をぎょろりと動かし、スクアーロを視界に留めた。
「あ? うるせえ、俺は今虫の居所が最悪だ。失せろ」
「呼んだのはボスだろうが。それに、ボスの虫の居所が悪いのはいつものことだ」
しばらくスクアーロを睨みつけていたXANXUSは口角だけを吊り上げて凶悪な笑みを浮かべた。血まみれの男の首を戒めていた手が緩められ、宙に浮いていた体が、短い呻きと共に固い床に落ちた。XANXUSは黒い革張りのソファにどかりと腰を下ろした。
「カスが、生意気なこと言いやがる」
「アンタこそ、部下の仕事を無駄に増やすのはやめてくれ。派手に散らかしやがって、面倒くせえ」
「いいから、さっさとこっちへ来い」
XANXUSが片手を差し出す。
スクアーロは迷わず足を踏み出した。手が届く距離まで間を詰めると、すぐさま右手首を尋常でない力で掴まれる。毎度のことながら、突然の衝撃に僅かに眉がぴくりと跳ねる。
「遅かったな。おかげでちっとやりすぎちまった」
「俺のせいかよ」
不運にもXANXUSの逆鱗に触れてしまった男を見下ろす。激痛に身悶えていたはずの男はぴくりとも動かなくなっていた。呼吸をしているかどうかすら怪しい。その男に意識が移っていた最中、頭に強い痛みが走った。銀の長髪を手加減なく引っ張られたのだ。スクアーロはXANXUSを睨みつけ、手を払い除けた。
「うおぉい! 何しやがんだ?」
「テメエこそ、俺の許可もなく何を見てやがる」
乱暴に引き寄せられ、バランスを崩したスクアーロは咄嗟にソファの肘置きに手を置き、何とか体が倒れるのを阻止した。ただ、腰を屈めた己とソファに深く腰掛けた男との距離は非常に狭まっていた。近すぎる顔に僅かに戸惑う。
「目逸らすんじゃねえ」
“絶対”の赤い眼が、じっとスクアーロを見ている。それは今にも射殺されそうなほど鋭い光を宿している。
噛みつかれる。実際に歯は立てられていないが、噛みつく、という表現が一番似合いだと思っている。口付けも、交合も、まるで獣が血肉を貪るようなそれなのだ。しかし、そんな行為が嫌ではない。
「……おい、それ、どうにかしろぉ」
スクアーロは足元に転がる男に視線を投げた。XANXUSも同じように男を見下ろし、事も無げに言った。
「心配しなくても、今意識はねえ。まあ、二度と戻らねえかもしれねえが」
「そういう問題じゃねえだろぉ。血生臭くてたまんねえ」
「よく言う。興奮するくせによォ」
XANXUSが喉の奥でおかしそうに笑う。スクアーロは何も返さなかった。
もう一度、噛みつかれる。ちりちりと腹の底で燻っていた何かが大きく燃える。
思考は焼け爛れて、何も考えられなくなった。