致死量の言葉
「せやから、ここがこうなるんやろ」
「そうなると、こう…、か?」
「正解」
「おお、できた! 勝呂、ありがと! 勝呂はすげぇな!」
「阿呆。こんなんできて当然のレベルや」
にかりと笑う燐に、勝呂は呆れたような、けれどもどこか柔らかい溜め息をつく。
「んー。でもさ、やるのと教えるのって違うんだろ? 雪男がなんかそんなこと言ってた」
「まぁ、そらな」
塾では講師という立場だとは言え、その立場になったのは自分たちがこの塾に入った時と同じだ。いくら優秀でも、いまだ慣れない部分もあるのだろう。
「やるのも教えるのもどっちもできる勝呂はやっぱすげぇし、かっけぇ! 俺、勝呂好きだ」
言いながらうんうんと頷く燐に、思わず勝呂の顔が赤くなる。
「そんなん言うたら奥村先生の方が凄いやろ! 同い年で先生やねんぞ」
「雪男は凄くない。教えるの下手だし、俺的カッコイイ奴ランキングも最下位だし」
史上最年少祓魔師と誉れ高い雪男に凄くないと言えるのは燐だけだろう。あれで凄くないなら世の中の人間で凄いといえる人間はほんの僅かではないだろうか。燐の凄いの基準が分からないと思いながら、引っかかった言葉を尋ねる。
「なんや、そんカッコイイ奴ランキングて」
「俺のなかでのカッコイイ奴のランキング。勝呂は二位だ!」
若干、いや、結構な嬉しさを感じながらも、気になるのは自分の上をいく人物。
「……一位は誰や?」
「俺たちの親父」
「そりゃ一番やなぁ」
おそらくその順位はこの先も揺るがないだろう。そう考えると今の順位に満足するものの、少しでも不動の一位との差を縮めるために、そしていつかは肩を並べるくらいになるために努力は惜しまなであろう自分も居る。
(一位と肩並べるて、祓魔師なるより難しい気がすんな)
それでも諦める気はさらさらないのだが。誇らしげに笑う燐の頭を撫でれば、嬉しそうに笑い返された。
「奥村君、そんなかぁいらしぃ顔して何話してはるん?」
学校の用事で遅れて来た志摩がにこにこと笑いながら燐の頬をつつく。子猫丸はと尋ねれば、まだ学校の用事が終わっていないと言う。これでは志摩のストッパーが足りない。この節操無しがと勝呂が苦々しく呟けば、その手は燐によってぺしりと叩かれあっさりと離れていった。
「勝呂はかっけぇって話と、俺的カッコイイ奴ランキングの話」
「あー、あの切なすぎるランキングな……」
「なんや、順位下やったんか?」
「選外……」
あはは、と溢された笑いは渇き、弧を描く目にはうっすらと涙が浮かんでいる。ランキングにすら選ばれていないというのがまた哀れだ。
「選外……、まぁ、お前らしいちゃお前らしいな」
「そんなぁ! あれ? そういう坊は何位でしたっけ?」
「……二位」
「嘘や! なんなんこの扱いの差! 二位と選外て!」
「だって勝呂と志摩だろ? そんなの当然じゃん」
何がおかしいんだ? と首を傾げる燐に、志摩は大きく溜め息をつきながらよよよ、と泣き真似をした。
「あんまりやわぁ。悲しすぎるわぁ。奥村君、美的センスちょお違うんちゃう?」
「なんだよそれ! 絶対そう思ってるの俺だけじゃないって」
待ってろよ、と言うと燐は席を立ち、ひょこひょこと別の机に座る少女達の元へ向かう。
「しえみー、まろ眉ー」
「なぁに、燐?」
「ちょっと、変な名前で呼ばないでよね」
小さく首を傾げるしえみと、眉を顰める出雲。この二人なら答えてくれるだろうと燐は勝呂たちを指差して尋ねた。
「あのさ、勝呂と志摩どっちがかっこいいと思う?」
「はぁ? 何よそれ」
「勝呂君と、志摩君?」
突然何だと首を傾げる二人にことのあらましを伝えた。
「だってさー、志摩が俺のび、び、ビフテキ? センス?」
「……美的センス、のこと?」
「そう、それが違うって言うからさぁ。絶対勝呂の方がかっこいいのに」
「アホらし。どっちもどっちでしょ。ヘタレトサカに脳内ピンクじゃない」
「なんだよ、まろ眉も志摩みたいに俺のセンス違うって言うのかよ」
出雲が鼻で笑えば、燐の頬がむぅと膨れた。
「そんなこと言ってないわよ! ……セクハラ男より、ヘタレの方がまだマシじゃない?」
言葉はキツイが勝呂の方が良いということに違いはない。そんな出雲に燐はへにゃりと笑った。
「そっか! しえみは?」
「わ、わわ、私!? えっと、私は、その」
「雪男って答えは無しだからな」
「そ、そんなこと言わないよっ!」
顔を真っ赤にさせながら、それでも真剣に答えようとしているのだろう、えっと、その、と口ごもるしえみを、青い瞳でじっと見つめながら待つ。
「勝呂君と志摩君なら、えっと、その、勝呂君は勉強が出来て凄いなぁと思うけど……」
「それって勝呂の方が志摩よりかっこいいってこと?」
「いや、あの、その……」
「やっぱ志摩のがかっこいい?」
勝呂がかっこいいと思うのは変なのか、と自然に燐の眉が下がる。その様子を見たしえみは慌てて首を振った。
「え、あ、ううん! 勝呂君の方がかっこいいと思うよ!」
「だよな! えへへ、やっぱ勝呂の方がかっこいいよな!」
二人の言葉に嬉しそうに笑い礼を言うと、勝呂達の元へ駆け戻る。
「勝呂ー! やっぱ勝呂の方がかっこいいって! しえみもまろ眉も言ってた!」
「……坊」
さすがに羨ましさを通り越した志摩は苦笑し、燐たちの会話を聞き次第に俯いてしまった勝呂をそっと伺うが反応はない。席に戻った燐がどうしたんだと声をかければ、普段よりも鋭い勝呂の眼光がぎろりと向けられた。ただし、その顔は朱に染まっていたので迫力には欠けていたが。
「お前は何恥ずかしげもなくこっ恥ずかしいこと聞いとんのじゃ!!」
「聞いちゃ駄目だったか?」
眉を八の字に垂れ下げ、不安げに首を傾げられば駄目とは言えず、
「お、俺はお前がそう思てるなら他の奴らは別に――!」
「うん?」
「――っ!! な、何でもないわ……」
自分は今何を言いかけたのか。それを考えれば顔中に熱が集まり、朱を通り越し赤に染まった顔で突っ伏す。
「勝呂? 大丈夫か?」
そっと勝呂の肩に触れ、どうしようと尋ねてくる燐に志摩は苦笑しながら答えてやる。
「ええんですよ、奥村君。そっとしといてやってください」
青い春真っ只中なだけですから。