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触れる場所

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まさかいつもここで寝てるんじゃないだろうか。

一晩宿を借りたシャムロックが居間にやってくると、締め切ったカーテンから洩れる日の光の下で、広いソファで体を小さくして眠っている男を見つけた。

ここは彼の家だ。だから彼の部屋があるだろうに、何でまたこんな場所で。
何かに没頭でもしていたのかと思ったが、薄手のタオルケットに寝間着姿。寝心地の良さそうな低反発の枕。本格的にここで寝ているらしいと見てとれる。

風邪を引きやしないかと上から毛布でもかけようとしたが、生憎この部屋は車椅子が安易に通れる家具の配置ではなく、体重によって軋んだ床板のせいで当の本人は起きてしまった。

目を白黒させて、驚いた顔で暫くシャムロックを見つめた後、「そうだった」と何事か呟いている。

「おはよう、タリズマン。まさか昨日もここで眠っていたのかい?」

問いかけると彼は案の定頷く。「ここが寝る場所」と言いながら。

「きみの部屋は?」

そこでは寝ないの?
問いかけると、タリズマンは曖昧に微笑んだ後フと窓を眺めて起き上がった。カーテンを開けている。朝の清々しい光が部屋の中に満ちた。

「今日も良い天気だな」

答えなかったところを見ると答えたくないらしい。
シャムロックは己に言い聞かせていた―――――焦る必要はどこにもない。どこにもないけれど、空に漂う雲を掴むような何の手応えもない感覚に、時々どうしようもなく焦るのだ。

このままどこかに消えてしまのではないかと。

その理由が解からず、待っていればいつか話してくれるのか、それとも踏み込むべきなのか迷うのだ。

「どうしたんだ朝から浮かない顔して」

タリズマンの声がする。



きみのせいだ。



シャムロックは溜息をついて「朝食を作るよ」と言った。



作品名:触れる場所 作家名:やつか