練習。
ほとんど黙って話を聞いていた安形がそうまとめ、パンパンと手を叩くとそれぞれが立ち上がる。
「ちょっと待ってください」
「どうした、椿?」
ファイルを机でそろえる安形が顔を上げる。持ち前の目付きの悪さで、椿はほぼ安形を睨んで居るようにしか見えない。
「暫く俺に会えないのが不満なんでしょ?」
「断じて違います」
それ以外には考えられないという口調で榛葉がそうからかうけれど一蹴。
「やはり危険です。デージーが怪我でもしたらどうするんですか」
「わたしは平気」
一連の流れを思い出すと、そういえば最初から椿は囮作戦には反対で、もっと確実な方法があるはずだと主張してはその度に周りに茶化されてごまかされていた。妥協できない性格の椿のことだ。このまま作戦に移るのは認められないのだろう。
「デージーじゃ不足か?うちには女子は2人しか居ねえわけだが」
「いえ……そういう訳では…」
まさかミモリンに任せるのかとファイルで肩を叩きながら安形が苦笑すると、椿は肩を落とす。
「……だからさあ、椿が女装したらいいんじゃない?って言ってるでしょ」
「ちょっと黙ってて貰えますか?」
榛葉が場を和ませようとしているのか本気なのかは誰にも分からない。ただどちらにしても椿の怒りを買うには充分で、タダでさえ余りよくない目付きがさらにキツくなる。
「だから椿は顔が知られてるからダメだろ、バレねえはずがない」
何度か冗談紛いに提案された案は、何度も言われた理由で却下されるのだけれど、榛葉は今度は食い下がってにやりとする。
「いいじゃない。副会長に女装癖ってそれはそれで脅しのネタだよ」
「そもそも蜘蛛の会が狙うのは、女生徒、だけ、です!」
椿がそう言っても、榛葉はいたずらっぽく首をかしげる。
「なんで?椿なら大丈夫だよ。向こうも躊躇なく相手してくれるって。
なんならオレと予行演習してみる?女装と猥褻行為の。」
「結構です」
「椿、行きたくない、行かせたくないじゃ通らねえぞ。囮作戦は決定だ。その代わり配役はお前が決めろ」
「…………」
ぐうと黙った椿の背後では、榛葉が今度はデージーに'予行演習'を持ち掛け、徹底的に罵倒されている。
「……分かりました。」
椿は暫く考え込むとそう呟く。
「その代わりボクもデージーの見張りをします」
「生徒会が噛んでると知られたらお終めえだぞ?」
「やつらは今のところこちらを特別警戒して居ないのは調査から明らかです。バレるようなことはしません」
椿が断言し、安形の返事を待つ。
「よし、じゃあやれ」
安形の会長命令に、椿は行儀よく返事をした。