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みっふー♪
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novelistID. 21864
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ワンルーム☆パラダイス

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すでに足元が粒子化しかけた見台に手を添えておじさんが言った。勿論片手は顔前に高速運動し続けている。もはや大して動揺もせずその現象と行動を受け入れている自分にも、今さらながら少年は少々呆れていた。
「君と話せてよかったよ」
おじさんはそう言ってまばらな無精髭(残像だろうか)の口元を緩めた。
「――あのっ!」
半分ばかし姿の失せかけたおじさんに向かって少年は訊ねた。「……僕、もしかしてどこかであなたにお会いしましたか?」
「……さぁ」
おじさんが悠長に首を傾けた。「直接的に、という意味なら否かもしれないが、人と人とはどこかしら思いもかけないところで繋がっているものさ」
「おおっ叔父上っ」
正座した座布団をはみ出して少年は呼びかけた。
「……」
微笑を湛え、神速で手を振るおじさんの姿は掻き消えた。
「――ああ、行ってしまわれた……」
結局最後まで顔ははっきりしなかったな、項垂れた少年は別の違和に気が付いた。
「なんか“叔父上”ってフツウの口調までつられて変わっちゃうよコレ、」
いやぁ慣れないお上品言葉って怖いわー、少年は三本ラインの着物の肩をさすって身震いした。


+++

次の日、またまた溜まっていたDVDを立場上の上司命令で不平垂れながら返却に向かった店舗にて、少年は偶さか暖簾の向こうのアナザーワールドから半纏の肩を落として出てきたグラサン髭おじさんと遭遇した。
「!!」
少年と鉢合わせたおじさんは伸び放題の無精髭のせいだけじゃない、この世の終わりみたいな真っ青な顔をしていた。
「しっ、シンちゃん!」
あれだけさんざんみっともなく逃げ回っておいて、まだどこかしら自分の前では格好つけたい気持ちがあるらしいのがいっそ滑稽だ、眼鏡を押さえて少年は思った、……いや、そういうこの人だから結果最終的に憎みきれないのかもしれなかったが。
「別にいいですよ慌てなくても」
半ベソ状態のおじさんを見て、ため息まじりに少年は言った。
「いいいいいやっ、俺はほらっ、借りてないからねっ! めめっ面接でさっ、話のタネに……、とっ……トレンドリサーチ! とにかく見てただけだからっ!!」
焦ったおじさんはつんつるてんの半纏の袖も裾も伸縮幅限界まで引っ張って必死に主張してみせた。
「……、」
少年は眼鏡に触れて再び短い息をついた。
「マ夕゛オさん、レンタル料どころかここの会員証だって持ってないでしょ」
「――!」
哀しいかな、望まず住所不定のおじさんは完全に打ちのめされた様子だった。しまったちょっと言い過ぎたかな、少年は思ったが、――まー確かに、いよいよ猫背を丸めてトボトボとフロアを行く後ろ姿は若干かわいそうではあるが、こっちはさんざん、……それだって頼まれもしないのに勝手に心配してただけだけど、あと五分くらいはどっぷり落ち込んでてもらっても引き合わないってことはないだろう。
――しょーがないなぁ、昼ゴハンくらいはオゴってあげますよ、
いまから五分後、声を掛けたら、たちまち生気を持ち直すであろうおじさんの間抜けな髭面を思い浮かべて、少年はくすりと肩を揺らした。


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