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風間望第四話:飴玉婆さん

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じゃあ次は僕の番だ。僕の名前は風間望。3年だ。
この眼帯?まあ、待ちたまえ。それが今日の話だ。
君は飴玉ばあさんに出会ったことがあるか?……ない?友達と喋りすぎて帰りが遅くなったりしないのか。友達居ないんじゃないの?高校生として不健全だよ、そこのなんだっけ、荒井君?みたいに放課後を一人で屋上で過ごす暗い可哀相な子も居るらしいから遅くなればいいってわけじゃないけどね。僕?僕は女の子たちが離してくれなくてね、毎日帰りが遅くなる……違う?友達?
うちのクラスに転がってるジャガ芋たちのことか。あれはいいんだよ。ジャガ芋の分際で僕が女の子の視線を釘付けにしてることにいっちょ前に嫉妬してるのさ。不細工な面下げて僕に盾突こうなんて、その心構えが一番の恐怖だね。そうだ、それが僕の怖い話でいいよ。3年E組に群生する妬みのジャガ芋星人。人生で初めて人に注目されて彼らも喜ぶにちがいない。坂上くん、いい記事にしてくれたまえ。
さあ、次の話に移ろうか。

…………嫌だ?仲間を庇うのか?君も随分生意気言うね。こんなんじゃ記事にできない?何を言ってるんだ。なんならジャガ芋星人の一人や二人紹介してあげるよ。地球での苦労エピソードでもインタビューすれば立派に一面記事だよ。……なんだ、怖い目をするなよ……わかった、わかったよ話せばいいんだろう。なんの話にしようか。ああ、そうだった飴玉ばあさんの話ね。わかったよ、全く君は今、大スクープの特集記事を逃したんだぞ。
君はオウマガドキって知ってるかい。逢魔が時だよ。黄昏れどきとも言うね。誰そ彼は。夕暮れ時、視界がぼやけて遠くにいるのが人間なのか悪魔なのかわからない。あの時間は彼岸と繋がってるんだよ。そのころにさ、出るんだよ。飴玉ばあさん。真っ赤なフードを被って大きな鉤鼻で。木の杖と籠を持ってる。そうさ、まるで魔女だ。でね、彼女の持ってる籠には飴玉が山ほど入ってるんだ。汚い飴だよ。手づくりでさ、セロファンに包まれてる。ピンポン玉くらい大きくてね。なんかもう遠慮したいって雰囲気なんだよ、見た目がさ。で、彼女は言うんだ。「飴はいらんかね?」ってしわがれた声。小さなお婆さんだ、たぶんそこの新堂だっけ?あいつが殴ったら吹っ飛ぶだろうね。喧嘩っぱやいって有名だからさ、彼。坂上くんも気をつけなよ。で、そんな飴をさ、君は貰うか?
……そうか、君も見かけに寄らず紳士だな。そうだろう、弱々しいお婆さんだ。貰うだけならなんの害もない。家で捨ててしまえばいい。バレンタインのチョコと同じ要領さ。あきらかに怪しげな手づくりチョコは中身を見ないで捨てる、常識だね。あ、君には縁のない話か。
僕もさ、受け取ったんだ。でお礼を言って帰ろうとした。そうしたらさ、食べろっていうんだ。そのお婆さん。今、ここで、美味しいから食べてごらんと言う。さすがに僕も後悔したよ。貰わなきゃよかった。僕はデリケートなんだ。こんな汚い飴を食べたら死んでしまうかもしれない。
でもさ、しかたないじゃないか。貰ってしまったんだから。僕は包みを開いてそれを摘んだ。すると、その飴は僕の手から逃げるようにころりと転がった。そんな顔するなよ、わざとじゃない。飴玉はころころ転がって排水溝に落ちてしまったんだ、受け止めようがないだろう。あんなに大きな飴玉だよ?よくも器用に落ちたもんだよね。……だから、わざとじゃない。君は僕をなんだと思ってるんだ。仮にも目の前に居る小さなおばあさんの手づくりだよ?いくらなんでもわざと捨てないよ。
そしたらさ、お婆さんが言うんだ。「おやおや、悪いことをしたのう。その飴はお前さんには合わんかったか。老いぼれのしたことじゃ、許しておくれ」やさしいお婆さんだろ。僕もさすがに笑っちゃったよ。飴に合う合わないがあるの?って。ニッキ飴だったのかなあとかおもってたんだけどさ。なんかね、あるんだってさ。お婆さんの飴には。後から噂で聞いた話じゃお婆さんの飴でニキビ跡が治ったとか、いきなり積極的になっちゃったりとかあるらしい。でもあいにく僕はそんな話は知らなかった。
半信半疑の僕に、お婆さんは籠の底から違う飴を差し出した。「お食べ」って。僕も気まずいし、今度は食べたよ。飴が逃げることもない。どんな味がしたと思う?……そう、すごく美味しい。僕は世界中の美味しいものを食べたつもりだけど、もうあれは並じゃない。毎日あれが食べられるなら、ほかに何も要らないね。勿論飴だから腹が膨れるわけじゃない。気分的にさ。
喜ぶ僕に、お婆さんも嬉しそうだった。僕は飴がもっと貰えないのか尋ねたが、お婆さんは首を横に振る。材料が貴重で一人に二つはあげられない。僕には渡し間違ったからサービスしたけどもう無理だとね。普通の飴なら僕だってそんなに駄々はこねないよ。そんなに食べたいなんて異常に見えるだろうね。まあ食べてないとわからないんだろうけどさ、一度食べたらまた食べたくて、諦められないんだよ。僕はお婆さんに詰め寄った。材料をあつめれば僕に作ってくれるのか。なんなら余分に集めてお婆さんに渡してもいい、どうにか作ってくれないかとね。彼女は困ったようだった。でも教えてくれたよ。彼女はゆっくり、骨と皮だけの手で指差した。僕がどこを指差してるかわかるかい?僕は最初に言ったじゃないか、この眼帯の理由を話してやる、ってさ。そう、目だよ。眼球だ。そんな人間の目玉なんて見たことないからさ、最初は信じられなかった。からかわれてると思ったよ。でもね、たしかに人間の目はそれくらいの大きさだった。……見たよ。僕の目。
「手伝いなんていいんじゃよ、これは趣味なんじゃ。おまえさんのような若者に喜んで貰いたいんじゃ」そうお婆さんは言った。でもさ、材料の目玉はどうやって集めるんだろうねえ。あんなに沢山。犠牲になってる人がいるんだろ?狂ってるよ。でもね、坂上くん。あれが彼岸の味なんだろうか。飴玉はこの世のものとは思えないほど美味かった。作るのにだって手間がかかるんだろうから、彼女は本当に善意で飴を配っているんだろう。
……君は食べたいかい?機会があれば?じゃあ機会をあげよう。わかる?この飴。汚い包装だろ。道に落ちててもたべないだろう。どこの誰ともしれない奴の飴が美味いんだ。僕の目玉なんて、きっとかなり美味い。間違いないだろうね。
どうだい君、食べるかい?
…………僕の話を信じてないだろう。君も仮にも新聞部員、記者だろう。知りたくないのかい?これが目玉なのか、本当に知りたくないなら坂上くんには君は記者は向いてないよ。……怒ったかい?でも事実だろう。このセロハンの中身を知る方法は1つしかない。僕の目玉はどこにある?この眼帯の下か?僕の手の中か。さあ、受け取れよ。味は保証してあげるよ。………そう、嫌か。しかたないね。




風間さんは飴を包みごとくわえると、セロハンだけを剥ぎ取って近くのごみ箱に捨てた。
「君は真実を知る機会を永遠に失った。さあ、僕の話はおしまいだ。次は誰の話だい?」