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結語

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二重底の金庫からダミアンがそれを見つけたのは、殆ど奇跡と言っていい。
3人の検事や警察が、それこそ虱どころかミジンコだって潰しそうな勢いで探し回った後だ。その後に書類の整理をしようとしただけのダミアンが、こうも簡単にそれを見つけるとは。マニィだったらそれを厭味とからかいに唇を歪めながら「愛の奇跡」とでも言ったのかもしれないが、ダミアンはそこまで厚顔無恥には成れなかった。例えマニィが死んだ今であってもだ。素っ気ない白い封筒に、「ダミアン」と宛名だけ書かれて、封すらされていない。大事だと思われなかったのか、封がされていないのだから中身はあらためたのか、ダミアンには分からない。そこに書かれた神経質そうな尖った字は、明らかに見慣れた彼のもの。
「もし貴方がこれを読んでいるなら私は死んでいるのでしょう」などという、むず痒い程にありがちな書き出しに、彼はさぞ面白がってこれをしたためたのだろうという事は分かる。ダミアンは思わず笑い、それから「捜査員各位様、これは個人的なラブレターです」という端書きに眉を寄せた。
自分が綺麗な死に方などできないことは承知していたのだろう。黒い噂に常に晒され、あんな悪人面で「悪銭身につかず」だの「因果応報」だのと平気で宣う男だった。最初はそれを悪い冗談だと思い苦笑し、その範疇にはマニィ自らも入っているのだと気付き呆れた。そんな彼をダミアンはダミアンなりに心配し、なによりそんな彼が好ましかった。
「私をこんな目に遭わせたのは、世界中の仲間の誰かなのだろうし、それが誰なのかは私もその時にならないと分からない。黒幕の名を挙げるのは簡単だが、証拠もなければ君達が煩悶するのは分かっているからそれも止しておこう。そもそも黒幕はやはり私なのかもしれない。ならば私からそれを聞き出すことに何の意味がある。各々の職務に忠実であれ。是非捜査に励んで欲しい。だからこの手紙は、私が唯一尊敬し、焦がれ、渇望したダミアンに送る。貴方が精練潔白、処女の如く清いことは捜査員の誰から見ても明らかだろうから、敢えてそこに言及するつもりはない。もし疑われるようなことがあれば、彼らは私が思うより無能なのだろう。残念だ。」
挑発しているのか面白がっているのか分からない文面を読みながら、やはり捜査員はこの手紙を見落としたのかもしれないと思う。寧ろ願う。
「さてダミアン。私が死んだ今、貴方がしなければならないことはただ一つ、ダイカイ像の廃棄だ。とにかく早急に手放すこと。なにせ聖母の如く潔白な貴方のことだから、そういった薄暗いルートには疎いかもしれない。しかし、貴方が私に勝てる唯一無二の類い稀なる取り柄は交渉術なのだから、なんとでもなる。いや、しなさい。貴方が脱ぎ散らかしたジャケットを見たときの私の顔を想像してほしい。それくらい真剣な話だ。」
確かに般若か鬼か悪魔かというほど怒った顔は、ダミアンにも容易に想像できる。彼はダミアンが書類に印を押し忘れたとか、或いは待ち合わせに30秒遅れただとか言うときですらほぼ同じ顔をしたのだけれど。
「貴方を大使にしてみせようと約束しただろう。私を無能な部下にはしたくないはずだ。私の計画の最期を貴方に委ねるのは些か不安だが、私の最期の頼みだ。」
なにを勝手な、と思いながら、金庫に入れられた偽のダイカイ像に目をやる。今やこの像の価値は、隠し扉を持つことだけだ。手放すのは何も惜しくない。元はそれはダミアンとマニィの二人だけで共有した秘密だったが、今となっては検事や警察の彼らにはバレてしまった。その他の瑣末な彼との思い出は見てのとおり焼け落ちた。国のため民のためと望んだ大使の座は、意味を無くしたは大袈裟かつ耽美すぎるにしても、その夢の側に必ず在った男を亡くして随分色褪せてしまった。
「そして、この手紙は暖炉で燃やしてしまうこと。」
唯一残ったダミアンに向けられた手紙は、けして存在してはならないものだ。密輸団の指令書は読んだらすぐに燃やされるものなのだと言う。これはそういう類の物だ。
「燃やした後はどうするか、もしわからないなら貴方と過ごした時間は随分無駄に浪費されたことになる。」
「「暖炉の灰は片付けること」」
手紙の文面と一字一句変わらぬ言葉が口から漏れた。それを忘れたから君の死体を運んだ人間がわかったんじゃないか、と言い訳をしても、彼はたぶん嫌悪と軽蔑が混じった冷たい目でダミアンを睨むだけだろう。
「……君は、本当に酷い」
あと一つだけ、という但し書きと共に2枚目の便箋にしたためられたたった一行を見下ろし、ダミアンは苦笑した。
「ダミアン、手紙の最後に付け加える言葉も、分かっていないとしたらがっかりだ。」
署名と一緒書かれた、それこそありきたりな結語に、ダミアンはただ便箋を握りしめた。

「マニィ・コーチンより 愛を込めて」

作品名:結語 作家名:まりみ