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愛と友、その関係式 第28話

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愛と友(ゆう)、その関係式
<下>終始

第二十八章 それでも傍にいてくれますか?

 二月二十二日。それは大学受験前日だ。
 その日、街はいつもより静まり返る。それもそのはず、高校三年――一番に輝きを放つ年齢であろう者達がこぞって自宅にいるからだ。
 まるで神託を待つように厳かに沈黙を保つ街。その中で、不釣合いな鈍い音が一つ響いた。
 ここは誰の目にもつかない忘れられた路地裏。
「ぐぁっ」
 小さな悲鳴を上げて、赤い飛沫が飛んだ。闇に蠢く影が多数。地べたに這いつくばる人影が一つ――。
「いろいろと動いてたみたいだが、もうしまいだ」
 低く唸るような言葉は嬉しそうに声を震わした。
「ざんねーん。ゲームオーバーだ」
 ゲタゲタと別の声が嘲り笑う。
 地面を這う影が前へ前へ動くと、また鈍い音がして呆気なくソレは飛んだ。壁へぶつかると、ぐったりと動かなくなる。
 まるでハイエナのようにソレを取り囲む影は闇の中で目玉だけ光らせた。
「――はなから明日しか狙ってないんだよ。つまり、どういうことだかわかるか?」
 問いかけに答える声はない。
 解っていたのか、特に気にも留める様子なく言葉は続いた。
「明日は大学受験だってなぁ。――天童は…どうすると思う? あいつの頑張りはお前のために全部パー。くくっ、あははは!!」
 おかしくて堪らないと下品な笑い声は光る目玉分だけ重奏した。
「……ク。天童はこねえよ」
「くるさ!」
 最後の気力をふりしぼった声はあっさりと否定される。
「まあ、必死で守ろうとしていた奴にあっさり見限られる姿を見せてくれても良いんだぜ。――心配しなくてもお前が駄目だったときのスペアくらい考えてあるからな」
「まさか……やめろ! 世間知らずに手を出すと面倒になんのは解ってるだろ」
「――それこそ今更だ」
 影は再び蠢いた。
「さ、明日の夜まで付き合ってもらうぜ」
 闇を深めて、夜は密やかに更けていった。
 
◇◆◇◆◇

「美奈子。……美奈子!」
 呼ばれて、美奈子ははっとした。目の前には心配そうに顔を覗きこんでいる天童がいる。
 ――そうだ。今日は先んじて大学受験を受ける天童を激励しに新はばたき駅で待ち合わせをしていた。何故だか昨夜から目が冴えていた美奈子は、早起きすると天童が来るより大分前に到着した。それから、ベンチで待つ間に考え事をしていると、つい浅い眠りについてしまっていたのだ。
「大丈夫か?」
「うん。考えごとしてたら少しウトウトしちゃっただけ」
 手の甲で目をこすると、美奈子は立ち上がる。
「考え事?」
「ちょっとね」
 未だに心配そうな顔をする天童に美奈子は微笑んでみせた。
 考え事というのは、もちろん紺野の言った言葉である。
 結局、あれから何も言えないでいた。作ったバレンタインチョコも、渡せないでいる。
 刻々と近づいている卒業。紺野のためにも、自分のためにも何かをしなければいけない。そうは思っても、いざ鈴鹿の姿を目にすると尻込みする自分がいた。
 決めたはずの覚悟が急に萎んでしまうのだ。
 過去に鈴鹿を傷つけた手前、どんな顔をして”やっぱり好きでした”などと伝えるのだ。それに、紺野が嘘を吐いたとは思っていないが、思い違いをしている場合だってなきにしもあらずだ。その場合、また鈴鹿へ負担をかけてしまう。
 ――そんなことを考えて紺野の言葉を疑ってしまう自分が最低のように思えた。何とかしなければいけない。そして、どうどう巡りを繰り返す。美奈子の眉間に自然と皺が寄っていた。
「なぁ。俺、お前の力になりたいんだ」
 やけに真剣な顔で天童が訊いてくるものだから、ほんの少しだけ美奈子は戸惑って首を傾げた。
「十分力になってくれてるじゃない。天童くんがいなかったら、勉強がこんなにできなかっただろうし」
「そういうんじゃない。俺は――」
 天童は美奈子の両手をとった。
 じっと天童の目が美奈子の目を見つめる。しばらくして、天童は自嘲気味に笑って、美奈子の両手をそっと離した。
「少し焦りすぎだな、まだ何も手に入ってねぇってのに――。変われた気がしたんだ。だから、こんな自分でも力になるれのかもって。でも、そうだな何も……まだ何も」
 天童がまるで何かをすくうように両手を椀型にした。見えないものを見るように掌の一点を見つめて、ぎゅっと握りしめる。
「俺、頑張るよ。――試験、ぜってぇものにしてみせる。話はそれからだ」
 からりと笑い、天童は制服の袖をまくって腕時計を見た。
「お、そろそろだな」
「もう?」
 つられて美奈子が腕時計を見ると、確かに試験会場へ向かう電車の発射時刻十五分前ほどをさしていた。
 天童は袖を直す。
「試験行く前に顔がみれてよかった。――なんとかやれそうだ」
「……うん、頑張って」
「ん」
 美奈子が微笑み、天童も微笑みかえした。
 目と目で語る一瞬の沈黙。その静寂をつくように――鳴った、携帯の着信音。
 天童は何の抵抗もないまま、携帯電話を胸ポケットから取り出した。着信先は――”アイツ”からだった。
 
◆◇◆◇◆

「ゲームオーバァァ」
 急な開発から忘れ去れてしまった埠頭の倉庫に男の楽しそうな声が響いた。
 男の周りには、男と同じ制服を着た数人の男子高校生がたむろしている。髪を脱色して、改造して見る影をなくした指定制服はいかにも柄の悪そうな彼らを際立たせた。
 中心に居る楽しそうな男はリーダー格らしい。男はいかにも気だるそうに親指と人差し指で携帯電話を掴んで喋っていた。
「――ぉ」
 携帯電話の先の通話相手は、男の声を予想だにしなかったに違いない。戸惑い、上ずった声をあげている。
 当たり前だ。何せ、男の持つ携帯電話は男のものではなく、男の足元に転がっているボロクズのような男のものなのだから。
 男は獲物を前にした獣のようにくつくつと喉を鳴らした。
「状況は解るよなぁ? 天童ちゃん」
「……お前は誰だ。どうしてアイツの携帯、それに俺の名前も」
「”誰”だって? お前は俺だ。なあ、同類――天童壬。さぁ、ここで問題だ。携帯がここにある理由、察しがつくかな?」
 言って、男はボロクズの男をつま先で蹴りあげた。くぐもった悲鳴が電話越しで天童に伝わる。
「……嘘だ。アイツが簡単に捕まっちまうはずねぇ」
「どうかな、信じられないなら本人に訊いてみるか?」
 男は携帯をフリーズハンドに変えると、ボロクズ男の耳元へ投げ捨ててボロクズ男の腹へ思いっきり片足を踏みおろした。
「っ、かは」
「やめろ! お前、本当に……。何でだよ、どうして一人でかかわっちまったんだ――」
 天童の焦る声に答えたのはリーダー格の男だ。
「大方、お前のためだろうよ。俺らとお前が鉢合わせしないように、ちょっかい出し続けてたんだ。泣けるねぇ」
 天童は言葉を失っている。
「――さぁ、これから一流大学を受験する天童くん! 君に”この哀れなお友達”を救う使命が与えられた。もちろん、臆病者らしく逃げるのも選択肢のうちだ。お勉強をした君は俺らとは違う人種かもしれないからねぇ、クズみたいな友達は早々切り捨てるのも優等生らしい選択だろうよ」
「んな煽んなくてもいい。行く、当たり前だろ」