T'es beau
「綺麗だ」
「…………ありがとうございます。この国の会議場は素晴らしいですね。」
その余韻が消え去るのを待って、オーストリアはその紫の瞳をフランスに向けた。
「ピアノがある?」
「ええ、ピアノは素晴らしい楽器です。」
オーストリアはそういいながら鍵盤にフェルト地の覆いをかける。
「もう止めるの。」
「そろそろ会議の時間でしょう、また二次会は参加しないつもりですか。」
「……この間はハブにされたの、お前知ってるだろ」
そうフランスが眉を寄せると、オーストリア小さく唇を持ち上げた。
「あのようなふざけた態度を取るのは議論に参加したくないからだと思っていましたよ。」
「お兄さんムードメーカーだからね。」
「日本があなたはカー・ユプシロンなだけ、といってましたけど」
「何それ、新しい略語?」
「さあ、私には。」
カ・イグレクと言われた言葉を復唱するが、やはり意味は分からない。たぶん褒め言葉ではないのだろう。
「もう少し、お前のピアノが聞きたいな。」
「珍しい」
「お前のピアノもお前も、本当に綺麗だ。」
「中身以外は、ですか。聞き飽きましたよ。」
オーストリアが肩を竦め立ち上がる。
「だってお前ちっとも俺に優しくないんだもん」
「おや、優しくしてほしかったんですか」
「そうだよ」
木目のピアノが黒い布で覆われる。
「なら、今度から気をつけましょう。」
くすくすとそう笑ったオーストリアが、顔を上げた。
「私の優しいは、結構厳しいですよ」
ピアノを痛めないように設計されたスポットライトと、それに照らしだされる柔らかい笑顔。
「……Le ciel bleu sur nous peut s'effrondrer」
「どうしました、急に歌なんて」
「イタリアが言ってた。恋をすると歌が歌いたくなるって」
菫色の目が真ん丸になり、それから眩しそうに細められる。
「お前は綺麗だ」
ステージから降りたオーストリアがフランスの脇をすりぬけた。
「私はシャンソンは弾きませんよ」
その声は、まるで歌のようだった。
作品名:T'es beau 作家名:まりみ