Shadow of HERO 4
Shadow of HERO
「バニーちゃーん、あんまイライラしてると眉間に皺できちゃうぞー…。」
「誰のせいでイラ立ってると思っているんですか。」
「……俺のせいですね、すみません。」
現在、バーナビーは虎徹と向かい合わせのデスクで書類整理をしている。
護衛をするにあたって特別に仕事場が用意されたのだが、バーナビーとしては憂鬱この上ない。精々、行き帰りと昼休みぐらいだと思っていたのに、まさか丸一日顔を合わせなければならないなんて。向こうも悪いと思っているようでチラチラとこちらを気にしてくるのだが、はっきり言って気が散るのでそれも迷惑だ。
「CEOも何考えてるんだろなー。俺もNEXTなんだから自分の身ぐらい自分で守れんのに。」
「あなたがそれだけ頼りないんでしょう。」
「ひっでー、これでもそこそこ強いんだぞ!」
「分かりましたから仕事したらどうです、オバサン。」
「絶対本気にしてないな…ってかオバサン言うな!」
内心ではバーナビーも虎徹と同じく疑問に思っていた。
CEOのマーベリックのことは両親が生きていた頃からの仲なのでよく知っている。彼は物事1つ1つを冷静に判断し、先の先まで見越して采配を振る人だ。NEXTである程度身を守れる人間に護衛を、ましてやバーナビー1人でこなせなんて無茶なことをさせる人じゃない。やらせるからには何か意図があるはずだが、それが何か分からない。
「お、12時か。なー、昼飯食べようぜ。」
「…いいですよ。」
勝手に行って来いと言いかけて、護衛を思い出し頷いた。
社員食堂に行くと思っていたのだが、予想が外れ彼女が向かったのはコンビニだった。
「食堂、使ってないんですか?」
「普段は使ってるよ。けど今日はオフィスにする。その方がバニーちゃんもラクだろ?」
確かに大勢が出入りする食堂よりかは、自分達しかいないあのオフィスの方が楽だ。
(どこまでもお節介な人だ。)
午前中ずっと気まずそうにしていたくせに、進んであそこに戻るなんて理解できない。そう思いながらバーナビーも昼食を購入し2人でオフィスに戻ってきた。
オフィスに戻って来ると、虎徹が設置されていたテレビの電源を入れた。
「あの、ここ会社なんですけど。」
「分かってるって。お昼だけ、な!」
「まったく…」
これだからオバサンは図々しくて嫌だ。
コロコロとチャンネルが変えられ、3・4回画面が変わったところで落ち着いた。お昼のニュース番組の特集で、内容は女性ヒーロー。番組のセレクトがいかにもオバサン臭い。テレビにブルーローズとドラゴンキッドの活躍シーンが次々に映りだされる。
「こいつら見るとつい頑張れーって応援したくなるんだよな。若いし女の子だからかね。」
「そうじゃないですか。それを狙ってる部分もあるでしょうし。」
「も少し前にそういう発想があればなー。…いやいや、それはヒーローの存在意義からズレてんだけど。」
「………」
虎徹の今の言葉を聞いてバーナビーは、もしかしたら彼女は昔ヒーローを目指していたのかもしれないと思った。
今でこそ男女関係なく存在するヒーローだが、己の小さい頃はまだ男性しかいなかった。彼女の性格からしてヒーローを目指そうとするのは容易に想像できるが……20年前では、どんなに努力しても受け入れてくれる企業がなかっただろう。
(もしかして、この間の一言は失言だったのか…?)
前に虎徹に遭遇した時、バーナビーはあまりの鬱陶しさから自分でヒーローをやればよかっただろうと言った。あの時は招集が掛かっていたので彼女の反応なんて見なかったが、相当傷付く言葉だったのではと今更ながらに思う。
虎徹は、ヒーロー業界のことを何も知らないお人好しではないのかもしれない。
「にしてもブルーローズの格好はいただけないよなー。年頃の娘がこんな肌見せちゃってさ。会社は何考えてるんだよ。」
(……気のせいか。)
テレビに映るブルーローズの容姿を批評している姿は、まさしくただのオバサン。そんな複雑な事情があるわけないかと考えを改める。
『―――これからも女性ヒーローに大活躍してほしいですね!以上、特集でした。続いてニュースです。近頃、ルナティックと名乗るNEXTによる犯罪者殺しが相次いでいることが分かりました。』
「!!」
「…公開したんですね。情報収集が狙いでしょうけど…」
下手をすればNEXTへの風当たりが強くなるだろう。ロイズから聞いた話ではもう被害者が10人近いらしいので、ここらが潮時だと思ったのだろうが…際どい綱渡りだ。
「それこそヒーローの頑張り時だろうよ。問題はルナティックの考えてることだ。あいつは野放しにしたらヤバい。」
「………」
「何をしてようと命は命なんだよ。けどあいつはそれを平気で奪いやがる。人の命を何だと思ってんだ!」
「…けど殺された方も人を殺してるんですよね。だったら文句は言えないんじゃないですか?」
「バニー…?」
「僕は、彼のしてることが絶対間違ってるとは言えません。」
こんなことを言えばまた虎徹が突っかかって来ることは必至なのだが、それでも口にしてしまった。
両親を殺したウロボロスを見つけた時どうするのか、それは追ってはいるものの未だに答えが出ていない。今のところ殺意は抱いていないが、対峙したら殺したくなるかもしれない―――そう考えると犯罪者は殺せばいいというルナティックの思考を否定する気にはなれなかった。
「……バニーちゃんには殺したくなるほど恨んでる奴がいるのか?」
「殺したいかどうかは分かりませんが、恨んでる相手なら。」
「だったら尚更ルナティックのやってることが駄目だって解るだろ。」
「……?」
彼女は何を言いたいのだろう。
「全然関係ない奴に、あいつは殺してやりましたーって言われて納得できるのか?」
「!」
「そういうことだよ。逮捕されれば少なくとも真実は判る…それでも被害者や家族が救われるとは限らねぇけどな。だからヒーローがいるんだろ、そういう人が生まれないように。」
意外だった。子供のようにヒーローは困ってる人を助けるもの、利益なんて考えないものと思っていそうな彼女が、ここまでヒーローの意味について深く考えているとは。
「つーことで、犠牲者を出さないためにもヒーローの連携は大事!分かったか?」
今までの真摯な表情が一変しヘラヘラとした締りのない顔になった。あまりにも後腐れのない変化にさっきまでのは見間違いだったのではと思いそうになるが、さっき打ち消したばかりの可能性のことも考えると、彼女がどういう人物なのかもうよく判らなかった。
作品名:Shadow of HERO 4 作家名:クラウン