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恋は遠い日の花火

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「……それで、その人を見ると息が苦しいみたいな……頭がぼぉっとするみたいな、なんか風邪でもひいたみたいになって、何か言わなくちゃと思っても上手くしゃべれなくなっちゃうんです」  普段だってそんなにしゃべったりするの上手くはないですけど、と自嘲めいた言葉を付け加え、綱吉はディーノを見た。
 数日前にふらりと現れリボーンに何か用事があったらしいディーノだったが、今回は時間があるのか部下達をホテルに引き揚げさせ自らは沢田家で寝起きしている。部下不在時の不調ぶりは相変わらずで、今も綱吉の目の前で舌をひらめかせているのはどうやら食後の緑茶で火傷をしたらしい。

「ディーノさん、俺の話……聞いてますか?」
「ひいてる、ひいてる」
「火傷のせいだっての解るけどひいてるって傷つくんで止めてくださいよ!」
「わりぃ……いや、聞いてるって!ツナの恋愛相談!」
「は?恋愛相談?」

 自分がしていたのは、ある特定の人物の前で起こる謎の体調不良の話で、そのような甘やかな話ではなかったはずだ。首をかしげる綱吉にディーノは若きマフィアのボスとは思えない人好きのする笑顔を向ける。

「それってときめいてるってことだろ?なぁツナの好きな子ってどんな子?」

 俺の知ってる中にいるのか?と無邪気に聞いてくるディーノに、綱吉は口を開け閉めするばかりだった。好きな子、と言われて綱吉の頭に即座に思い浮かぶのは笹川京子である。彼女についてディーノに説明することは、ディーノは彼女の兄とは面識がある為さほど困難ではない。何より綱吉とディーノの距離は、京子に対しての想いを聞いてもらうにはちょうどいいものだろうな、と綱吉は思う。これが獄寺隼人であれば京子はあさっての方向のいわれのない批判の俎上に乗せられかねないし、山本武はそもそも何かを相談するのには向かない相手だという認識がある。
 しかし今ディーノに語って聞かせていたのは、どちらかというと恐怖心を伴った深刻な悩みのつもりだったのだ。
 雲雀恭弥。綱吉の通う並盛中学の風紀委員長にして最強の不良。
 本来「ダメツナ」の呼び名を恣にしている綱吉にとっては、望んでもそうそう接点を持てるような人物ではないはずだった。それがいまこうして、彼の前だけで起こる体調不良に悩む羽目に陥っているのはひとえにリボーンの影響力である。

「好きな子とかじゃないんですよ!ものすごいおっかない人で……」
「おっかない?あぁ、ツナは絶対尻にしかれそうな感じだよな!今から恐妻家まっしぐらじゃねぇか」

 満面に笑みを浮かべながら、ディーノは綱吉の恋愛要素否定の言をさっぱり聞き入れない。その笑いにからかうような色でもあれば声を荒げてでも訂正するのだが、「微笑ましい」という言葉を人間の顔にしたらこうなるだろう見本のようなディーノに綱吉はとうとう説明を放棄し「困ってるんですよ」と投げやりに言い捨てた。
 イタリア男って恋愛至上主義で手が早いっていうけど、ディーノさんもやっぱりそんな感じなのかな?
 そんな思いを巡らせながらちらりとディーノの目を伺うと、にこにこしながら綱吉を眺めていたらしいディーノと真正面から視線がぶつかる。

「ん?大丈夫、心配すんなって!ツナの好きな娘に手を出したりしねぇよ」
「いや、その……そんな事は予想もしてないんですけど……」


 それに、俺はもう恋なんかしないしな。
 にこやかな表情に陰りも見せず、天気の話をするように軽く投げられたディーノの科白は、その調子の所為で綱吉の中に落ちてくるのに少しの時間を要した。恋はしない?

「え、なんで……」
「ん〜?なんでって、いや、そういうこともあるだろ?」

 ジャッポーネでどう言われてるかは知らないけど、イタリア男がみんな愛に生きてるって訳じゃないさ。
 綱吉が考えていたことを読み取ったかのようなその言葉は何処にも無理など感じられず、かえってそれが重かった。マフィアと呼ばれるような組織の長としての誓いなのか、ディーノ個人として何か思うところがある所為なのか、いずれにしろ今の自分にはその理由を問う資格はないように綱吉には思えた。恋はしない、そう軽く言う境地に辿り着くまで、ディーノはどんな人間と出会い、別れてきたのだろう。リボーンの縁で出会った人々の中では最も穏やかで人当たりのいいディーノが急に遠くなったように感じられ、綱吉はどうしようもなく俯いた。

「なんだよツナ、急に元気なくなってどうかしたのか?」
「……恋っていうと違うかもしれないけど、好きな子はいるんです。でも、さっき言った人はすごく怖くて強くて、一度なんか咬み殺すなんて言いながらぼこぼこにされて……」

 それでも、憧れているのかもしれない。
 訊けない、今はまだ。訊けない代わりにディーノに聞かせようと思った。自らの手放した恋の代わりに綱吉の恋とも呼べない幼い気持ちを聞きたがるのなら、全て聞いてくれればいい。元々、自分でも整理が出来かねる気持ちをディーノが解いてくれれば、という期待を込めて話を持ち出したのだ。聞きたがってくれるのなら好都合、と、頭の中のもやもやしたものをどうにか言葉に紡ぎ出す。

「憧れ、ねぇ……何、ツナ、そのおっかない子は年上?」
「はい、学校の先輩です。リボーンが<役に立つ男だ>とか言って、わざと気に障るような形で引きあわせたっていうか……」
「男って、なんだよ、その先輩とやらは男なのか!?」
「だからずっと言ってたじゃないですか!好きとかじゃないって!」
「だって、ツナを見てまさか男もいけるタイプだとは考えられないだろ!」

 ジャッポーネってそういうの、割と少数派なんだと思ってたんだけどなあ。
 呆然、といった体でその豪奢な金の髪を無頓着にかき回すディーノに、綱吉は思わず掴みかかった。言葉は全く形にできないが、否定したい気持ちでいっぱいである。

「なんでそっちなの!?ヒバリさんは、そんなんじゃないんですよ!」
「ヒバリっていうのか、名前は可愛いな〜鳥の名前なんだっけ?」
「そうですね、確か春の鳥で……じゃなくて!!」

 どう言ったら解ってもらえるのだろう。自分を草食動物と呼び、会話を交わす様さえ「群れている」と称して粛清の腕を振るう雲雀に、万が一にも自分が同性愛的な感情を抱いている等と思われたら。そんな事態を想定してみるだけですうっと腹の底から冷えてゆく気すらする。

「リボーンの手引きなら、俺もいつか会ったりするのかもなぁ、そのヒバリちゃん。楽しみなような怖いような……」
「あーはいはい、もう早いとこ会っちゃってくださいよ……」

 そしてヒバリさんがそんな甘ったるいものなんかじゃないことを実地で知ってくれるといい。綱吉は心底そう思った。自らは恋を捨てたのかも知れないが、だからといって他人のあらゆる感情を恋に結びつけないで欲しい。その姿が目に入っただけでうるさいくらいに鼓動を刻む心臓も、自然と涙の膜で覆われる眼球も、弾む息も、全て概ね恐怖に基づくものであり、それは恋なんかじゃない。

 爆発して飛び散り、鮮やかな軌跡を残す花火は遠くで見てこそ美しい。

 捨てた恋と同じくらい、彼は近づいてはいけないものだと認識を改めて、綱吉は深く一つため息をついた。
作品名:恋は遠い日の花火 作家名:タロウ