遠い世界の話
竜ヶ峰帝人、現在高校二年は幼いときに“多発性硬化症”と言う病気にかかったのだ。この病気は運動麻痺や感覚障害、視力障害を起こすもので日々帝人を精神的にも追い詰めていた。
帝人は二年前に池袋の病院にきた。そのとき偶然折原臨也というとても不思議で妖しげな人物に出逢ったのだ。
きっとそのとき帝人は臨也に一目惚れをしたのだろう。
自分が病気だとかそんな悪いことは全部わすれ、帝人はその瞬間に告白した。
そして、二人は“お付き合い”というかたちをとっている。
「こんにちは、帝人ちゃん。」
臨也の甘い独特の声と共に帝人がいる個室の真っ白い部屋へと足を踏み入れた。
「すみません…臨也さん……。最近、足に力が入ってこなくなってきて……。」
「いいんだよ帝人ちゃん。そのままベットに寝てて。」
そういうと臨也はベットの隣に丸掛けの椅子を持ってきてそこに腰を下ろした。
「本当にすみません。臨也さん…。
あと、今年はもう何処かに二人で出掛けるのも難しい…そうです……」
「そっか…。じゃあ、出掛けられなくても何か二人でできるもの、今度探して持ってくるから。」
「はいっ!ありがとうございます。」
帝人はそういうと、太陽のように温かく明るい笑顔を臨也に見せた。その笑顔は帝人が病気だというのが嘘のようだった。
それから他愛のない会話をし臨也は病室から出ていった。
あれから半年がたった。
とうとう帝人は目が見えなくなったのだ。
「臨也さん…あの、手握ってもらっても良いですか…?」
「うん。いいよ…帝人ちゃん。」
そう言いながら臨也は帝人の手をギュッと握った。
「臨也さん…。一つ…お願いを聞いてくれませんか?」
「なに?俺に出来ることならなんだってするよ。」
「今から話すことを…何も言わずにただ黙って聞いて下さい…。」
「…………う…ん。わかったよ…。」
帝人は臨也の返事を聞くと大きく深呼吸をしてゆっくりと話はじめた。
「先生の話だと…僕は…あと半年くらいで死ぬんそうなんです…。
臨也さん…でも僕…本当は…まだまだ、もっと…もっと生きたい…っ!!
生きて…臨也さんと、沢山のことを話したりして…っ!
臨也さんと見たいもの…行きたい場所……まだ一杯…あるんです。」
みるみるうちに帝人の目からは涙が流れた。だが、流れた涙は目に巻いてある包帯に次々に吸われていって頬を伝うことはなかった。
臨也は入院して更に細くなった帝人を抱き締めて彼女の口から紡ぎだされる言葉をただ黙って聞いていた。
「僕は……貴方に出逢って、愛することを知りました……。
僕は……貴方に出逢って、愛されるっていうことを知りました……っ。
……っぼ…くは…。
それだけでも………充分……なのに……っ!
僕は……死ぬのが恐くて恐くて恐くて……っ恐くて……っっ…たまらないんです……っ!!
まだ…こ、こまで…生きてきて……生きたい…っなんて…思っちゃうんです………っっ!!
いつの間にか…“生きる”ってことに対して……欲張りになってたんです……っ。
……………僕は、貴方を愛して…弱くなりましたっ……。
……………僕は、貴方に愛されて…強くなりましたっ……。
それを足せば……プラス・マイナス、ゼロになるはずなのに……っ…僕は…弱く…なりました……っ。
ぃ……ざや…さん………。
もっと沢山……っ、貴方と生きていたい…。
死にたくないっ!!
………僕は今になって…凄く凄く……死ぬのが…こわい……んです……っっ!!」
そんな少女の叫びに対して臨也は何も言うことが出来なかった。だから臨也は彼女に言葉を贈る変わりにただ黙って強く強く彼女の細い体を抱き締めた。
そしてそれから半年後。
竜ヶ峰帝人は静かに息をひきとった。