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toccata

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プリンを食べ終わり、皿を洗う為に席を外すようだ。
分かってるよ、とレンは手をひらひらさせながら言った。
音也とセシルは、彼のその姿を見て不安が隠せない。

明日仕事の人間以外が残った理由は、二人がまた今までと同じように言い合いをしたりして物事が先に進まなくなるのではないか、と言う不安があったからだ。
それと、病人である春歌の前でストレスを更にかけるような事はしたくない。
楽曲も完成して欲しいし、気持ち良く”仕事”を終えたい。
その為に自分達が間に入って緩衝材になろう、とそう考えたのだ。
一人よりも二人が良い、三人寄れば文殊の知恵…になるはずだ、とも。

(でも…ならないかもしれないなぁ…)

と音也は少々不安を感じる。
しっかり言ってくれる翔や、すっぱんと切れる言葉を使うトキヤがいない。
普段だったらとても大人な発言をするレンが、聖川を前にすると完全に「子供の喧嘩」を始めるのだ。
トキヤが部屋から出て行く直前に音也を呼び、

「貴方に任せましたからね。他の二人は話しが脱線するでしょうから。きちんと纏めて下さいよ」

と眉間にしわを寄せ溜め息交じりで伝えてきた。
大丈夫、と言ったが本当に大丈夫だろうか、と…レンから聞いた数日間での出来事を想像すると…本当に頭が痛んだ。

セシルが、もぞもぞと鞄を弄り始めている。
何をしているのかと思ったら、寝間着と小さな鞄取り出していた。

「え?セシル君、寝るんですか?」
「イエス、もう夜ですから。でもその前にミューズにお祈りをしマス」
「お祈り?」
「イエス。アグナパレスでは、朝と昼、そして夜寝る前にミューズに祈りを、音楽を伝えるのデス」

小さな鞄にはフルートが入っている。
組みたてながらセシルは言う。

「今日は、愛しい人のカイフクを祈る事も含めて…」

完成したフルートを構え、音楽を奏で始めた。
静かに透明に広がる音楽は、部屋に充満して行く。
言葉ではない、文字ではない。
様々なものを超えた、信仰心と愛情。
レン達は、神秘的な音に満たされていた。

その時、ぱたん、と言う音が部屋に響いた。
ドアが閉まる音だ。
セシル以外の人間は、そちらを向く。
部屋の入口に、少し大きめの鞄を肩から下げた聖川が居た。

「…どうして、お前達がここに…」

レンは、呆気に取られた顔を苦笑いしながら見つめ。
那月は、お帰りなさいと笑顔で迎え。
音也は、これからやってくる説明の時間の重さを意で受け止める準備をする。
夜の帳を下ろす音楽が、それぞれの思いを優しく包み込んでいた。

作品名:toccata 作家名:くぼくろ