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きみこいし
きみこいし
novelistID. 14439
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マーモン先生の課外授業(追加加筆・済)

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「というわけで、付き合ってもらうよ。サワダツナヨシ」
「いったい何の話ですかーーー!!」
ある晴れた天気のいい日。
独立暗殺部隊ヴァリアーのアジトに足を踏み入れた瞬間、ツナヨシは絶叫した。


≪マーモン先生の課外授業≫


玄関ホールに仕掛けられたトラップに見事にひっかかり、芋虫状態で床を転がり、アグアグともがくツナヨシに、トコトコと歩み寄ってきたのはヴァリアーの幻術使いであり、比類なき守銭奴、さらには藍のアルコバレーノでもあるマーモンである。
「うるさいよ。ボクだって何が悲しくて六道骸の弟子を鍛えなくちゃならないんだい」
「わ~ミーの師匠有名人じゃないですか~」
単調な・・・一言で言えばやる気のない口調でそう呟き、吹き抜けの天井部からひょいと飛び降りてきたのは、これまたヴァリアーが誇る幻術使いであり、六道骸の弟子でもあるフランである。
二人の立ち位置から察するに、どうやらこのトラップを仕掛けてくれたのはフランのようだ。軽やかな着地をきめると、フランもスタスタとツナヨシの方へ歩いてくる。
二人とも相変わらず、陰気くさい黒尽くめの隊服を着用してはいるが、マーモンはすっぽりとフードをかぶり、その表情は(というか素顔すら見たことないんだよな)うかがい知れない。対するフランも隊服を着てはいるが、彼の場合、なんと言ってもその頭だろう。フランの動きにあわせて、ファンシーなカエルがひょこひょこ動いている。
(・・・・暗殺部隊にカエルの着ぐるみ)
だいたいにして部隊のトップをはじめ、『暗殺』なんぞという隠密性の高い仕事とは裏腹に、自己主張が強い面々ばかりだが。しかし、何と言うか、非常にシュールな構図である。
(あ、目あったし・・・)
見上げれば、つぶらな瞳と見つめあう結果になってしまい、思わずツナヨシが「なんだかなぁ」などと物思いにふけっている横で、幻術使いたちはサクサク話を進めていく。

「じゃ、とりあえず獲物は確保したから、触覚から一通り試してみるんだね」
「え~めんどくさいからイヤです~もっと、こうパッと、サッと、ポイッと、腕があがる方法とか教えてくださいよ~」
「イヤだね。もしあったとしてもタダで教えるはずがないだろう」
「けちんぼ。ボソッ」
「もしもし?」
「ふん、このボクが指導してやってるんだ。感謝されても悪態をつかれる覚えはないよ」
「たっぷり授業料ふんだくるくせに。ごうつく守銭奴。ボソッ」
「もしもーし、ちょっと二人とも!」
「さっきから、うるさいね。なんだい?」
「なんですか~」
床に転がったツナヨシがしゃべれることを思い出したかのように、ツナヨシを見下ろす霧の幻術使いたち。逆行だか後光だかで影がかかっているし、二人とも普段から表情に乏しいのが、かえって非常におっかない。が、ここでひるんでは、組織のトップとしてあまりに情けないだろう。意を決してツナヨシはつっこんだ。
「だから、一体何の話だよ?!」
この際だ、縄をほどけとか、無様に床に転がされたまま放置されている現状もスルーしよう。だが、先ほどから頭上で交わされている不穏極まりない会話だけは無視できようはずもない。なんたって、被害をこうむるのは、きっと、いや、確実に自分なのだから。
ジト目で見上げるツナヨシに、ふん、と息をはきマーモンは口をひらいた。
「つまり、この厄介な後輩の指導を頼まれたんだよ」
「ミーがお願いした記憶は一切ないんですけど~」
「まったく。面倒だけど、ボスの命令だからね」
「いや、それは何となくわかってたけどさ。オレが聞きたいのは、なんで、オレが、縄で縛りあげられて、床に転がってなくちゃならないんだ?」
なおかつ付け加えるなら、仮にもツナヨシは『彼らのボスの上司』であるにもかかわらず、だ。
「幻術の腕をあげるなら、超直感持ちを相手に試すのが一番てっとり早いからさ」
「だったら、ちょうどいいヤツがすぐ近くにいるだろ!なんでオレなんだよ」
「ボスのことかい?まさか。命がいくつあっても足りないよ」
「ミーもごめんこうむります~。ボス、非常におっかないんで~」
「その点でキミは、超直感持ち、かわいいものに目がないし、しかもタダ。練習台にもってこいだね」
「嬉しくねぇええ!!」
「・・・誉めてるんだけど」
「まったくそう聞こえねぇよ!」
ともあれ、そんなツナヨシのツッコミだの抗議の声だのはいとも容易く流されて。いくら容姿が可愛かろうと、やはりマーモンもアルコバレーノ。この『歩く不条理』はさっさと、指導にはいったのだった。