Like a dog
2.夢から覚めて
「きのうのドラコは本当にかわいかったなー」
ぬけぬけと相手が締りのないだらしない顔つきで笑うのを見て、ドラコは怒りと羞恥心で真っ赤になった。
「僕を騙したな、ハリー!!」
ギロッと盛大に力の限り相手をにらみつけるが、その効果はまったくないようだ。
「僕のことかわいいって、好きだって、キスもいっぱいしてくれたし、その胸で抱きしめてもらって眠ったし、あー、幸せすぎるよ」
夢見心地で顔を上気させたまま、うっとりとドラコを見て微笑む。
「本当にあんなに素敵な笑顔なんか見たことがない。だから結婚して、ドラコ!僕との一夜の責任を取ってくれるよねっ!」
「――はぁ?!」
ドラコは引きつった顔で相手を見る。
「なんでお前と僕が結婚なんかしなきゃいけないんだ。頭が腐ってるのか?!」
「なんてひどい言い方するだよ。きのうはあんなにやさしく指でからだ全体を愛撫して、キスしてくれたのに。冷たいじゃないか、ドラコ」
「だから、それはお前が変身したことをすっかり忘れて、ただの子犬だと思ったから、そうしただけで、もし今のお前だったら指1本も触らないから、安心しろ!!」
「まったく、キミは遊びで僕をおもちゃにして、もてあそんだのか、ひどいぞドラコ!!」
「ひどい、ひどい」と連呼しながら、すねたふりで相手にすがりつく。
「近寄ってくるな。あっちいけ、シッ!シッ!」
まるで犬を追い払う仕草だ。
むっとした顔でハリーは相手に近付くと、ドラコの唇をペロリと舐めた。
「―――なっ!!」
真っ赤な顔で後ずさるドラコにハリーは追い討ちをかける。
「きのう、もっといっぱいキスしたよね。覚えてる?ドラコのその指先が、僕の背中や胸や足や、股間を―――」
「そこまでは触っていないはずだっ!」
ドラコはきっちりと訂正する。
「ちぇっ、バレちゃったか」とエヘヘ笑って、頭をかいた。
「ねえ、ドラコ―――」
ハリーは相手の手を引っ張ると強引に、柱の影に抱き込むように、その狭い空間に引っ張り込む。
ドラコの背中に腕を回して抱きしめながら、上目使いに覗き込む。
「今夜はどんな犬がいい?リクエストを受け付けるよ。キミの犬の写真を見せてくれたら、それと同じに変身するし、白い犬でも、黒い犬でも、キミの好みのままの姿になってあげる」
「―――好みの姿だって?」
ドラコはごくりとつばを飲みこむ。
ゆらゆらと瞳が嬉しそうな色に染まっていくのを、ハリーはうっとりと見つめる。
「そう……。キミの望むとおりの姿に変身して、キミの部屋へ訪れるよ。どうかな、ドラコ?」
「どうかなって、そんな魔法は禁止だし……」
ハリーは少し笑って、相手にそっと顔を寄せた。
「ねえ……。きのうの焦げ茶の毛足が長くて、ふわふわの子犬は、どうだった、ドラコ?」
ほほにチュッとキスをしながら尋ねる。
「――いい。ものすごくチャーミングだった。最高にかわいかった」
ドラコは昨晩のココア色の子犬を思い出して、もう誰のキスを受けているのか忘れたように、うっとりとした表情になる。
「どんな犬がいい?僕はどうやら動物もどきの魔法がとびきり上手みたいなんだ。僕がどれだけ上手に変身できるかは、キミもよく知っているよね?」
両ほほを撫でるように両手で包んで、そっとハリーは耳元に甘くささやく。
「―――キミの好みはなに、ドラコ?」
「きのうの犬でいいよ。ものすごくかわいかったから。マシュマロみたいなフカフカの柔らかい手触りが最高だったよ」
うっとりとした表情を浮かべているドラコを、ハリーは自分の胸に抱きこんだ。
「ハリー、このことは……」
「もちろん秘密さ。僕たちだけの秘密だよ」
「ああ、そうだな。その考えはとても助かるよ」
ほっとした顔のドラコを見て、ハリーは小さく笑う。
ハリーにとってきっかけなんか、どうでもいいことだ。
ドラコの中の自分の存在が段々と大きくなれば、それでいいだけだ。
この意地っ張りで素直じゃなくて、臆病で寂しがり屋のドラコは、自分が変身した犬なんかより、もっとずっとずっとかわいかった。
夢中で好きすぎてどうしようもないほどだ。
最初はライバル、やっと最近友達になって、そしていつかは恋人に……
(……どうか甘えてドラコ。僕にもっと甘えて。僕はキミが安心できる、唯一の場所になりたい。)
―――そして今夜も僕はドラコの部屋を訪れる。
きっとドラコはドアを開けてやさしく抱き上げて、柔らかく頬ずりをしてくれるだろう。
僕の顔を見て、嬉しそうに笑ってくれるかな?
■END■
作品名:Like a dog 作家名:sabure