再び燈る
そう言ったその眼が驚いていなくて、それにどうしようもなく、苛立った。
「おまえほんとに神出鬼没だな」
どこかぼんやりと、夢の続きをみているような── そんな眼をしていた。これから自分の身に起こるであろう事を知る前から全て受け入れてしまったような表情は、オレが無言で銃を上げた後も変わることがなかった。
固めたはずの決意が、揺らぐ。
「丁度いいぜ、」
戦場にはそぐわない明るさと笑顔。張り詰めた緊張の中でさえ、それは常に失われなかった。同じ使命を背負っていながら、あまりにも違う種類の人間。……オレには理解できなかった。
戦いの前、笑って言ったことばを覚えている。「任務が終われば宇宙に帰れる」── 最初から何も持たずに地球に降りたオレには、帰る場所を持って戦う兵士の気持ちなどわかりようもない。ただ、眼だけが吸い寄せられるようにその横顔を見ていた。
あの日の死神の面影は、目の前でうずくまる少年にはない。
オレが銃を向けているのは、帰りたかったはずの宇宙でなにもかもを失った、独りきりのちいさなこどもだった。
……シラナイ。
判断力を鈍らせる、何か。警告さえも凌駕する。研ぎ澄ます思考の片隅に、雑音よりもかすかに、確かに、僅かな摩擦で暴発しそうな何かが在る。
目を細める。ここでは暗すぎてその形を見極められない。怒りか、焦りか、それとももっと別のものか。だとしたら何故、何に対して? どんな意味が?
銃のむこうで絶望を享受したあいつが立ち上がる。堰を切ったように、名もない感情が膨れ上がる。
オレは、こんな奴は、知らない。
「さあ、ひとおもいにやってくれ」
目蓋のなかに消えてゆく、まばたくたびに光が散るようだと思っていたコバルトブルーの眸。今は閉ざされる前から既に灯りの消えた幻燈だった。
苛立ちが深くなる。何故光を消した、と問い詰めたいような衝動に駆られて自分自身に戸惑う。── 問い詰めるまでもなく分かりきっていることだ。そのためにオレはあいつに銃を向け、あいつはそれを受け入れているのだから。
引鉄にかけた指に力を篭める。この手が僅かに迷うことをやめれば、光は永遠に失われるだろう。
(あきらめるな)
誰の、声?
決意はまだ揺らいでいる。生と死の境界、引鉄に指をかけたまま。祈りのように。
時間など最初からなかった。待てるのは数秒にも満たない、だからその間におまえが決めろ。
嘘でも、虚勢でも、何かの為でもなく。おまえの意志で。おまえ自身の感情で。
選べ、
(3、2、1──── )
「……なあ、おまえ本気で撃つ気だろう」
向けた銃口の先で、コバルトブルーに光が再び燈るのを見た。