豆腐の話
橙の商店街は薄暗かった。埃と人々の世間話と太陽の沈む音。
南郷は振り返った。子どもの目線の先には、のろのろとした流水に晒されている豆腐が幾つも。
なんだ、こんなもんでいいのか?
うん、これがたべたい
子どものリクエストに答えて豆腐を二丁、買って帰った。大した料理をする自信はなかったので生姜も葱も買って冷奴にして食べた。子どもはきれいに箸を使って、豆腐を崩さず口へ運ぶ。生え揃ったちいさな歯の奥に、白い塊がするすると飲み込まれていくのを見て、南郷は四度、瞬きをした。自分の皿を見れば、ただ掴みきれなかったそれの残りがぐちゃぐちゃと汚く散乱しているのみである。ごちそうさま。赤木の皿にはまるではじめからそうであったかのように薄く醤油が残っているだけだった。