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A study in mouthpiece

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この状況は何度目だ。

知らない道、傍らにはテキストを常時送る美女。
突き当りを曲がって曲がって曲がって・・・今日は小さいアパートメントの2階。
車から降り、連れ出された部屋には僕の『同居人』の兄、マクロフト・ホームズ。

「地動説も知らない弟が世話をかけているね、ドクター。」
「や、家賃の件では、お世話になっています。」
言いよどむ僕に、マイクロフトはいつもの笑みで応える。
笑っていない目から、お前の行動はお見通しだというのが分かる。
言葉を続けようにもそれは無駄な事だと分かり、僕は唇を噛んだ。
PTSD治療アドバイザーに勧められて始めたブログは盛況のようで、
姉のハリーや大家のハドソンさん、果てはペンキ専門家の少年までも見てくれているらしい。
もちろん、僕の同居人、世界でただ一人の『コンサンタント探偵』を自称するシャーロック・ホームズは言うまでもなく、わざわざコメントも残してくれた。
そして買い物中だった僕を連れ出した張本人、シャーロックの兄、英国機密機関に所属するシャーロックの兄マイクロフトもその例外ではないようだ。
「シャーロックはミルクを買って来てくれるかね。」
「今日は、僕の番だったので。」
マイクロフトにかかるとろくなことはない、彼とは初対面からしてあまり良いものではなかった。
彼は毎回僕を監禁でもするように呼びつけ、シャーロックの近況をわざわざ僕の口から報告させる。
加えて、彼は僕と二人きり出会う事を好む、理由は大体想像が付く。
僕がマイクロフトと会うとシャーロックの機嫌が悪くなるのを知っているからだ。
「今日は個人的に会いたかったんだ。」
「今までが個人的じゃなかったんですか?」
マイクロフトは楽しそうだ、お気に入りの傘をくるくる回している。
今すぐにでも出て行きたい、逃げ出したい、でも、できない。
僕はまた唇を噛む。
「君は楽しいねえ。もっと楽しませてくれると、嬉しいね。」
「僕は楽しくありません、帰らせてください。」
僕の事を楽しいと言ったマイクロフトはますます楽しそうに微笑む。
きっと、僕を新しいおもちゃかなんかに思っているのだろう。
この圧倒的な立場の差が悔しい。
僕がぎりぎりと唇をかんでいると、耳元で声がした。
「君が欲しいよ、ジョン。」
「転職のお誘いですか。」
光栄です、とはき捨てるように言い僕は椅子から立ち上がる。
怒りと恥ずかしさからマイクロフトを睨んでいると、彼はおもむろに僕のしたくちびるを掴んだ。
くちびるを引っ張り、くちびるの裏を興味深そうに観察する、その目は口腔内科医の診察と同じだ。
明らかに、いろんな意味で危機的な状況なのに僕はまだ動く事ができない。
「ふぅん。セルマー社かヤマハ社か、悩むところだね。」
不意を付いた言葉に僕がぽかんとしているとくちびるにあった手は離され、
代わりに、僕のポケットには小切手が差し込まれた。
「愛しているよ、と弟に伝えておいてくれ。」
アイラブユーのところだけ僕の耳でささやき、またにっこりと微笑んだマイクロフトは、
ぽかんとしたままの僕に肩をぽんぽん叩くと、お気に入りの傘をくるくるさせながら部屋を出て行った。

「クラリネットがお上手なんですってね、ジョン。」
ベーカー街221Bへの帰り道、窓が閉まる寸前の声で、僕はようやく意味を理解した。

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「服を脱げ」
「ハァ?」
部屋に入って早々、シャーロックは僕に命令した。
「服を脱げジョン、あの男の臭いがする。」
不快だ、と呟くシャーロックはイライラを隠さない。
あの男が誰を指すのなんて分かりきっている、ついさっきまで会っていた事も、もちろん。
僕は乱暴にジャケットを脱いでソファに置くと、両手を挙げて『脱いだよ』の仕草をした。
シャーロックはパソコンを打つ手を止めると立ち上がり、少しかがんで僕をじろじろ見た。
肩や腕をぽんぽんと叩かれる、されるがままにしていると、いきなりしたくちびるを掴まれた。
「ふぅん、セルマー社かヤマハ社か。悩むところだな。」
僕が後ずさろうとするとそれより先にシャーロックの腕が伸び、抱きしめられ、強引にキスされた。
僕が離れようとすると噛み付くようにくちびるをつける。
窒息するくらい口をつけ、舌で僕の口内を荒らしまわったシャーロックは、最後にしたくちびるをがりがり噛んだ。
「!!シャーロック痛いッ、やめてくれ!」
「ジョン、僕のをくわえる時は歯を立てるなよ。」
「ハッ。」
動揺して変な声が鼻から出た。
意味が分かるにつれ顔が赤くなり、僕は片手で顔を覆う。
シャツの袖で何度か口をこすると、そこには血が混じっている。
手を話して前を見ると、まだ近くにシャーロックの灰色の瞳があった。
「おいシャーロック、血が出たじゃないか。」
「よかったなジョン。これでシャーロック製だ。」
「く、らだない。」
睨み返そうとしたものの、ウインクしたシャーロックの顔が予想外に優しくて、僕はもう一度、シャーロックのキスを許してしまった。

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『趣味はクラリネット、マウスピースはセルマー社製』
ジョン・ワトソン医師のブログに、新たなプロフィールが加わったのはそれからすぐの事である。
作品名:A study in mouthpiece 作家名:末永