Like a dog 2
進んで変身しようとは思わないけれど、それを自分の好きな相手が喜んでくれるなら話は別だ。
自分の体がねじれていく奇妙な感覚も最初だけだ。
ものの1分でハリーは大型の立派な犬へと変身した。
ゴールドの毛並みは艶やかで、垂れた耳ややや尖った鼻の形もいい。
ブルリと一回からだを揺らして自分の変身した状態を確認すると、フサフサの毛足の長い毛を揺らして、ゆっくりとドラコに近づく。
舌を出すと前足で伸び上がって、ドラコのほほをペロリと舐めた。
その感触にドラコは目が覚めたように、パチリと瞬きをする。
視線を落とし、自分の前にいる優美な姿の犬を見て、一気に相好を崩した。
「かっ……、かわいい。なんてチャーミングなんだ」
ほほを桃色に上気させ、満面の笑みでその犬をぎゅっと抱きしめてくる。
「この鼻の素敵なことと言ったら……。毛並みも最高の手触りだ」
犬の鼻先に自分からキスして、「かわいい」という言葉を連発し、その顔に頬ずりまでする始末だ。
どこもかしこも余すことなく相手のからだを撫でまくる。
犬は気持ちよさそうに鼻をクンクン鳴らして、盛大に長いふっさりとした尻尾を何度も振った。
ドラコにしたら、この抱きしめている大型犬ははただの犬になっているらしい。
『ハリーが変身した』という前置きは、茶色の犬の姿を見ただけですぐに抜け落ちてしまった。
抱きしめて、頬ずりして、撫でまくる一連の行為を何度も何度も繰り返して、やっと満足したのかドラコは犬から離れる。
壁際まで歩き、自分のベッドの上掛けをめくった。
「さぁ……、おいで。チビ―――」
やさしい声で呼ばれてそこにもぐりこむと、すぐにドラコが隣に入ってきた。
ニッコリと笑って、まるでぬいぐるみを抱くようにハリーの懐に抱きついてくる。
その仕草があまりにもかわいかったので、思わずドラコのほほを舐めると、ドラコは目を細めた。
「くすぐったい」
クスリと笑い声を上げる上機嫌さだ。
その毛並みを愛おしそうに指先で梳きながら、ドラコは「もう寝よう」と耳元で甘くささやく。
魔法で部屋の明かりが消されて、天窓からの月光の中でドラコは何度か瞬きを繰り返して、すぐに眠りに落ちていく。
それでも力が抜けた腕はまだ、ハリーに抱きついたままだ。
安らかな寝息を聞きながら、ハリーはじっと相手を見詰める。
こういう風にいっしょのベッドでからだを寄せ合って寝るのは、なんて気持ちがいいんだろうと思った。
自分はいっしょに眠るという行為に、ひどく飢えていることに気付いていた。
甘えられる相手も物心ついたときから誰もいなかったから、それを渇望してることも知っている。
(―――だけど……)
と、ハリーは思う。
「……だけどその相手が誰だっていい訳じゃないんだ」
そう呟き相手の柔らかな象牙色のほほをペロリと舐めた。
一層相手へと擦り寄り抱きしめなおすと、ハリーも瞳を閉じる。
瞼を閉じてもフワフワとする、くすぐったいほどの幸せな感じが身を包んだ。
(なんて素晴らしい一日の終わりなんだろう……)
満足そうに、ひとつため息をつく。
その夜、ハリーがしびれるほど悦びを感じたまま眠りについたのは、言うまでもないことだった。
作品名:Like a dog 2 作家名:sabure