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【T&B】ヒーローシック

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紙をめくる音、身動きする気配、ため息。
薄ぼんやりと開いた目に映るのは見慣れない部屋だった。視線を動かすと寝ているベッドの端にもっさりとした金髪を見つけて、バニー、と小さく呼んでみる。独り言の様な囁きだったのに、その金髪は敏感に揺れて彼は振り向いた。
「気がつきましたか」
 普段クールなバーナビーにしては珍しくほっとした様な表情をしていて、虎徹はなんだか後ろめたくなった。頭をかきながら、虎徹は努めて明るい調子で尋ねる。
「俺、どーしたんだっけ?」
「仕事中に熱出してぶっ倒れたんですよ。僕、休めって言いましたよね」
 バーナビーの穏やかな表情が一変して、鋭く睨まれた。突き刺さる視線に虎徹はもそもそと手元の上掛けを引っ張って縮こまる。確かに今日は朝から調子が変だったが、まさか昨日の怪我で熱が出るとは思っていなかったのだ。甘く見ていた自分が悪い。
「あー…その…迷惑掛けたな」
「全くです」
 分かりやすくため息をついたバーナビーは座っていた床から腰を上げると、ベッドの端に座り直した。寝ていてもベッドの揺れは少なくて、このベッド結構いいとこのなんじゃないかと勝手に推理していたらふと疑問が湧いてくる。
「そういや、ここは? 医務室じゃないよな」
 ベッドの事もあるが、医務室にしては部屋の中が殺風景だった。
「……僕の家です」
「へ? お前、仕事は…」
 確か今日の予定はデスクワークのち午後から取材が入っていた気がする。主にバーナビーのものだろうから、一人でも対応できたはずなのに。
「その怪我は、元々は僕の所為ですから」
(だから責任取って面倒見てる、ってか)
 虎徹は冷静に納得して、また面映ゆくなる。
「そーんなに気にすんなって。市民を守るのがヒーローの仕事だぜ?」
「僕だってヒーローです」
 バーナビーの静かな声にハッとする。そんな辛そうな顔をさせるつもりじゃなかったのに、うまい慰め方が分からない。ためらいがちに手を上げると、即座にバーナビーは反応した。
「なんですか」
 こちらに身を乗り出してきたバーナビーの髪に触れて、わさわさと撫でる。
「やわらけー」
「何がしたいんです」
 振り払われるかと思ったら、呆れながらも好きにさせてくれた。虎徹はしばらくその感触を堪能すると、首だけ起こしてバーナビーと額を合わせる。思っていた衝撃は、ひえぴたが貼ってあったおかげで特に無かった。
「ありがとな」
「……熱、まだありますね」
「そっかぁ?」
 ひえぴたの上から分かるとか、どんな額だ。一応自分でも額や頬に触れてみたが、火照りは感じられなかった。効果が薄れてきたんでしょう、とひえぴたを貼り替えられると、
「何か…食べたいものありますか」
 そうぎこちなくバーナビーが切り出してきた。
「お、バニーの手料理か。まぁ、今時の男子たるもの、料理のひとつも出来ねぇとな!」
「え?」
「……え?」
 虎徹の言葉に首を傾げるバーナビーから何故か渡された冊子の様なものをまじまじとみつめて、虎徹も同じく首を傾げる。それは、いくつかのデリバリーのメニューだった。
「え、バニーちゃん、これ?」
「その中に食べたいものがあったら言ってください」
 頼みますから、と携帯電話を取りだしたバーナビーがキメ顔で待機している。一応メニューを見て見ると、ジャンクフードもあれば高価な料理もあって。
「……バニーちゃん、いっつもこんなんばっか食ってんの?」
「時々利用してます。さすがに毎日は無いですけど」
 最近飽きてきたんですよね、と呟くバーナビーの携帯を無言で取り上げると虎徹は身を起こす。前から気にはしていたが、なんだか本格的にバーナビーの食生活が心配になってきた。まだ寝てた方がいいですよ、という制止は聞き流して、虎徹はベッドから起き上がる。身体はだいぶ軽くなっていて、頭もすっきりしていた。よし、と拳を握りしめると宣言する。
「キッチン借りるぞ」
 呆気にとられたバーナビーの顔がなんだか子供っぽくておかしかった。