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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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「蓬莱寺様、マリィ様、ご無事で何よりです。東洋人の若い方の司令官を見逃すことと引き換えに、天香学園には手出しせずとの交渉が成立しました」
 にこりともせずに、女性――東の陰陽師の棟梁であるところの御門晴明の式神、天后芙蓉は頷いた。
 銃はまだ彼らに向けられていた。
 だが。
 蓬莱寺京一、マリィ・クレア、天后芙蓉。この三人にとって、戦うことは易い。残りの兵士たちを、戦闘不能にすることくらい、ほんの十分もあれば十分に違いない。
 だが、蓬莱寺京一は木刀を納め、兵士たちの動きを見守る体勢に入った。


 双樹咲重は、講堂の近くの壁に隠れ、様子を窺っていた。あたりまえのことながら、その場所は、先ほど弦月が立っていた場所と同じだ。
 講堂の入り口には、兵士が二人いる。
 双樹は時計を確かめた。先ほどのやり取りから、二分半。ほんの少し、香袋の口を緩める。
 淡く香る。講堂にむけて、ゆっくりと甘い香りが漂っていく。扉の前は、比較的広いスペースになっている。そこ全体に香りを行き渡らせるとなると、香水瓶を数本ぶちまけても足りないのではないだろうか?
 彼女の香りは、それに比べ、あまりに淡かった。
 兵士たちは動かない。
 弦月は、双樹の後姿を見守っていた。
 彼女は、物陰を出て講堂に向かって歩みを進めた。
 兵士たちは動かない。
 ごく当たり前の表情で、彼女は扉に手をかけた。
 空いた手で、ぎゅっと香袋を握り締める。
 扉が細く開く。
 きっかり三分。彼女は扉を大きく開け放った。
 そして、その瞬間、弦月はすばやく身を起こした。
 懐に手を入れ、ヒトガタの呪符を取り出す。彼は、眉を寄せた。最後の一枚だった。
「待て!」
 誰何の声に、口元をゆがめる。
 頓着せず、窓を開け放つ。
 開け放った窓が、きしむような音をたてた。
 弦月は目を見開いた。急いで手を放した窓は、凍り付いていた。
 すばやく視線を走らせた先には、オールバックの男子生徒がいた。身体を前傾させ、足元を軽くする。両の手は、胸前で軽く握られていた。
 口元に笑みを蓄え、弦月は一挙に窓を乗り越え、外に身を躍らせた。
 髪を数本、もっていかれる。
 間近を通り過ぎた凍気に身を震わすヒマもなく、彼は校舎にそって走り出した。
 走りながら、懐の符を放つ。
 彼が、校舎の影に身を隠すと同時に、彼の姿を写した符が逆方向、墓の方向に向かって走り出す。
 先ほどの男子生徒がそれを追うのを確認し、弦月はオーバーアクションで胸をなでおろした。
「若い子も、やるもんやなぁ。って、オヤジくさいで自分」
 コツンと、右手で自分の頭を叩き、辺りを見回す。
「もうちっと講堂の様子を見たほうがええか――」
 しばらく考えた後、彼は墓とは逆方向、校門に向かって歩き出した。


 通信機に向かっていた兵士が、先頭で銃を構える兵士に耳打ちする。
 先頭の兵士は、その報告に頷くと銃を下ろした。
 彼に習い、次々と他の兵士たちも銃を下ろす。
「確認がとれたみてぇだな」
 京一の言葉に、黙って芙蓉は頷いた。
「マリィ様。携帯電話をお持ちですか?」
「ウン」
 どうしたの? と。そう言いながらも、マリィは素直に芙蓉に携帯電話を手渡した。
 兵士のうち一人が銃を構える。だが、この隊のリーダーらしき兵士――先頭にいた兵士に遮られ、下ろす。
 マリィは、目を細め、彼らを見ていた。
 銃が下ろされると、力を抜き、黒猫を撫でる。
 芙蓉は、よどみなく電話番号を入力すると、通話ボタンを押す。
「間に合うといいのですが」
 小さな呟きに応えるように、プツリと呼び出し音が途切れた。
「って、何や何や? ずいぶん、懐かしい顔が揃っとるやん」
 校舎側からかけられた、のんびりとした声に、京一は木刀をかまえた。
「待った。天地無双は勘弁してや」
 ホールドアップの姿勢で、関西弁をしゃべる男が姿を現す。
「ああ?」
「――リュウ」
 京一とマリィの目が見開かれる。電話をしながら、ちらりとそちらを見た芙蓉すら、微かに表情を変えた。
「久しぶりやなー、元気やったか? マリィちゃん、京一はん。って、何やその顔。嬉しゅうないん? 哀しいなぁ」
 京一の驚きの表情が、落ち着くにつれ、夜道のコートマンでも見るかのようなものに変化した。
「……いや、嬉しいとか以前によ。おまえ……二十歳も過ぎてガクランか?」
「あ、コレ?」
 弦月は、自らの上着をつまんだ。
「諸般の事情っちゃうやつで。まじまじ見られたら辛いかもしれんけど、昼休みにちょいと歩くくらいなら、大丈夫なんやで」
「……高校生してるわけじゃあないんだな」
「当たり前やん。汀はんと違って」
「きょーやんと違って」
 最後の部分が見事に重なる。
「知ってんの?」
「お姿は遠目ながら拝ましていただきました」
 弦月は両手を合わせ、何かを拝む仕草をしてみせた。そして、その後すぐに笑い出す。その様子を見、京一は深くため息をついた。マリィもまた、つられたように笑い出す。
「もしかして、降伏させたんか?」
 芙蓉が電話を切るのを見計らい、弦月は笑いを収めた。
「上で交渉が成立しました」
 芙蓉の短い言葉に、弦月は頷いた。
「マリィちゃん。わいにも電話、貸してくれるか?」
「……って、こん中でケータイ持ってんのマリィだけかよ」
「持ってない京一はんに言われる筋合いはあらへん。っと、ねーちゃん?」
「俺は帰国したばっかだからいいんだよ。って、芙蓉チャン、間に合ったのか? って、何にかしんねーけど」
 電話に向かって、中国語で話し始めた弦月から目をそらし、京一は芙蓉に尋ねた。
「間に合いました。とはいっても、《墓》に入るため、すぐに合流とはいきませんが」
「なるほど」
 京一は、頷くと《秘宝の夜明け》(レリックドーン)の兵士たちを見た。彼らは、無線機に取り付いて、方々に連絡をしているようだった。
 だが、先ほどまでと同じで、応えは芳しくないらしい。一人が毒づき、無線機を乱暴に戻した。
「こっちも交渉成立。来てくれるな? 京一はん、芙蓉はん、マリィちゃん」
 携帯をマリィに返し、弦月は両の手を打ち合わせた。
「どこへ」
「わいのアジトや。あと、ちょっと手伝って欲しいんやけど――って、女の子はええねん。力仕事は、野郎の仕事や。芙蓉はん。――M+M(エムツー)機関が会いたがってる。伝える相手はおる?」
 弦月の言葉に頷くと、芙蓉は符を取り出した。彼女の手から離れたそれは、蝶に変じ、ふわりとした軌跡を描いて姿を消す。
「よっしゃ。んじゃ、そっちの《秘宝の夜明け》(レリックドーン)のお人。あんたら撤退するんやろ? ちゃんと、お仲間は持って帰ってや」
「……おい。劉。まさか、てつだえっつーのは」
「燃えるゴミは月水金。夜中に出したらあかんで」
「へぇへぇ。よっしゃ行くぜ、ってことで。マリィ、芙蓉。連中を見張っててくれよ」
「マカセテ、キョーイチオ兄チャン!」
 彼らは、校門からグランドに入った。それに、《秘宝の夜明け》(レリックドーン)の兵士たちが続く。
 マリィと芙蓉はヘリの近くに立ち、京一と弦月は校舎に向かって歩く。男二人に、兵士たちの半数が従った。
「後は、如月か」