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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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アダルト―HiddenBehaver―



 十分だけ待ちます。京也が示したタイムリミットに間に合わせるため、皆守甲太郎は、大急ぎで自室に戻り、準備を済ませた。服装を整え、携帯品を確保する。それに加え、いくつかの用を済ませるに、示されたタイムリミットは、けして十分なものとは言えなかった。
 緑色の非常灯だけが照らす寮の廊下を歩きながら、携帯を見て時間を確かめる。数字が変わってもなお、タイムリミットには一分を残していた。
 小さく頷き、大きく寮の入り口の扉を開ける。
 だが、開けた先に、京也の姿はない。微かに目を見開き、辺りを見回す。さらには、一度中に戻り、入り口近くの談話室をのぞいた。
 消灯を過ぎた談話室は、自販機の明かりすらついていなかった。鼻をつままれてもわからないような暗闇に覆われている。隠れるには悪くないだろうが、待ち合わせでわざわざ中にいる理由はないように思えた。
 もう一度、外に出る。やはり、人影はない。あと、寮内で確認を行うならば、トイレか京也の自室だろうか。
 雪が勢いを増していた。彼らが歩いてきたはずの道も、すでに薄く白に覆われている。
 皆守は小さく舌打ちをした。そして、ポケットから取り出した携帯を開く。たった三文字打ち込み、送信する。すぐに閉じて、暫し待った。
 サブディスプレイには、現在の時刻が表示されている。
 約束の時間を、ほんの少し過ぎていた。
 程なくして、着メロが鳴り響く。メールではなく、音声着信だった。
「てめぇ、どこにいやがる」
 携帯を開くと、開口一番、皆守はそう言い放った。
「用意、できたっすか?」
 のんきな声が鼓膜を刺激する。あまりにのんきすぎる声だった。
「十分待つっただろ。勝手に行ってんじゃない」
「誤解ですってば、誤解」
 いきなり、切れた。電波状況が悪いとも思えない。怯えている風もない。何か電話向こうで突発事項があったかのような様子もなかった。
「五階も六階もあるか――って、おい! 御子神!」
 切れたのだから返事が返るはずはない。その程度のことがわからないはずもなかったが、皆守は携帯に向かって声を荒げた。
「こっちこっち」
 だが、実際には返事があった。ただし、音声着信ではない。生の声だ。はじかれたように、声のほうを見、無意識の動作で携帯を閉じる。
「すみません、ご心配おかけしましたってトコで」
 機関室のあたりから姿をあらわした京也は、のんびりと手をふった。
 皆守は、大きく息を吐いた。
「オマエな。どこ行ってたんだよ」
「ちょっと、暖を取りに」
「寮のなか入ってりゃいいだろうが」
「せっかくの雪なんで、雪見も」
「――緊張感のないやつだな」
 次々と白い欠片を落としてくる空を見上げる京也の仕草に、皆守はもう一度ためいきをつく。にはは、と、京也は妙な笑い声をあげた。
「コートは、どうしたんだ?」
 目の前に来た京也の姿に、皆守は眉を寄せた。
 皆守が部屋に戻る前は、京也がコート姿で、皆守が薄いセータのみだった。
 だが、今、彼らの服装は逆転していた。皆守がコート姿で、京也が薄いセータにアサルトベストという格好だ。アサルトベストのポケットがしっかりと膨らんでいること、作業用みたいな軍手をしていることが、いつものこととはいえ、間抜けさをかもしだしている。
 京也は小脇に抱えていた携帯端末(H・A・N・T)を、ひらひらとふった。
「やっぱり、動きづらいかなぁ、と。皆守クンが用意してる間に、部屋においてきました」
 胡散臭い笑みを顔に貼り付け、京也は言った。
「ただ、ねぇ。コレ、入んなくって。どうしようかと」
「《墓》まで行ってから脱げばいいだろう。――オマエな。ポケットにノートをつっこもうとするなよ」
 振られた携帯端末(H・A・N・T)の大きさを測るかのように、皆守は目を細める。
「いちおー、CD二枚分弱のサイズだからそんなに無茶じゃないと思うんですけどねぇ」
「……無茶だろ、それは」
 皆守は額を抑えた。そして、いつものように、ポケットからアロマパイプを取り出した。
「――で。行くのか? それとも」
 アロマのスティックをセットしながらの声に、京也はこともなげに頷いた。
「はいな」
「そうか」
 当たり前のような答えに、皆守は低く言った。そして、雪が降りしきる中に足を踏み出す。
「……フツーの靴じゃきついっすねぇ」
 歩き出す前に、京也は自らの靴を見下ろし、ため息をついた。先ほどの温室からの帰り道だけでも、京也のスニーカには、十分に水がしみている。冷え切った足先に今更と言えば今更、シャーベット状の雪は容赦なく冷気を伝えてくる。
「まぁな」
 顔をしかめ、同じように皆守もまた、靴を見下ろした。布製のスニーカである京也にくらべれば幾分かマシとはいえ、雪が降ることなど全く想定されていない革靴は、かなりひどい状態になっていた。
「昼間なら、電車が止まってそうっすよ」
 深さを測るように、真っ白な場所に足を下ろす。靴の口から雪水が浸入したか、京也は小さく声を上げた。
「俺らには関係ないけどな」
 その様子には頓着せず、皆守はポケットを探っている。いつものような飄々とした姿勢で、うまくぬかるみを避けつつ歩きながらの動作だった。
「全く」
 一度足を止めた京也が歩き出すと同時。
 百円ライタの軽い音がし、甘い香りが一瞬だけ強く立ち上った。
「――どうしたんすか?」
 皆守は紫色の安っぽいプラスティックのライタをふってみせた。京也が頷くと、それをポケットに収める。
「壊した」
「おやま、もったいない」
 いつものような会話だった。他愛ないやりとりをくりかえしながら、ゆっくりと彼らは歩いた。
 雪に覆われた道に、黒い足跡が二組。それもまた、都内にしては珍しい雪の勢いに埋もれる。
 九月に京也が転校してきて以来、何度も通った道だった。ただ、雪が降る中、肩をならべ向かうのは、初めてだった。