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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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「ああ、その通りだ。M+M機関じゃ、大掛かりな土木工事を伴った後処理ってのには向かねぇ。天香学園も、危険度は下がったとはいえ、爆弾抱えてることにゃあ変わりねぇし、《護人》の下っ端はともかく、頭にはちったぁこっちの仕組みってのを教えとく必要もあるだろ。かといって、最初っから情報を渡しすぎるのも危険だ。ま、組織としてはともかく、あの阿門帝等、そのうち何かの役に立つような気がする――のは確かなんだが。ったく、妙なところで高校生でいやがる」
「あの状態で、おまえを相手に交渉してのけるというのは――高校生にしては、立派なものだ。阿門帝等。伊達に《墓守》の長ではないということか」
「まぁな。飛水はともかく、そのうち、M+M機関のほうとはつながりができてもおかしかねぇ」
「そうですか。……村雨さんがそう言うのならば、かなりのものなのでしょう」
「ま、まだまだだけどな。俺から見れば」
「高校生に遅れをとってどうする」
 如月の言葉に、村雨は声を上げて笑った。
「除籍までは承諾したものの、それ以上は――か」
「どうしましたか?」
「僕は事件の顛末はある程度知っている。あの学校が抱えてきたものも、それなりに知った。けれど――」
「けれど?」
 壬生に促され、如月は首を横に振った。
「汀があそこでどう過ごしてきたのか。まぁ、毎日のようにカレーを食べていたらしいということくらいは知っているが」
 自らの言葉に、小さく笑う。つられたように、あとの二人もまた、ほんの少しだけ声に出して笑った。だが、すぐにそれは、収まった。余韻すら、当たり前の笑い声よりも、短いように思えた。
「――それなりに、汀はあの学校内にとけこんでいたんだろう。汀があの内部にいた生徒たちをどう思っているのか。そして、それ以上に――汀と接触した生徒が、汀をどう思ったか、そして、どんな影響をうけたのか」
 ゆっくりと、如月は言葉を選んだ。壬生は何の表情も浮かべずにそれを聞き、村雨は小さく頷いていた。
「僕は知らない」
 沈黙が落ちた。
 秒針が、時間を刻む。古い時計独特の、大きすぎるその音が、静かな居間に響いていた。
「あの御仁が、あそこで知り合った連中を、大事に思っているのは確かだろうよ」
 村雨の言葉に、如月は頷いた。
「それなりの信頼も向けているだろう」
「半年にも満たない期間、ですけどね」
「てめぇをふりかえってみろ。そうだろ? 壬生」
「ああ、確かに」
 壬生は、細い目をさらに細めた。そして、口元が微かに弧を描く。
「ほんの数日でしたよ」
「その通り」
 大げさなほどの動作で、村雨は頷いた。皮肉に口元をゆがめた笑みは、彼が脆弱な黄龍の器と出会った頃と、ほとんど変わらない。
「問題は、山積みだあな。あの御仁については」
「それでも。僕たちは――」
「冷静に見りゃあ、いくらでも欠点はあるんだけどなぁ」
「バカな子ほど可愛いということでしょう。普段は、いらつくことも多いのですが」
「違いねぇ。逃げ回り、とりつくろって、いじけて、閉じこもって。それでいて、最後の最後には、他人のために度胸をすえる。すえたからには、使えるものは古新聞だって、使い尽くす。まぁ、そんなセンセイの姿を知ったのは、終わってからだったけどな、俺は」
「本当に、よくまぁうまくいったものです」
「だーから、そりゃあ、まわりの人材が良かったんだよ」
「騙されていたのかと思うと、少々腹も立ちますけれどね」
 村雨と壬生は、顔を見合わせて笑いあった。
 過去を懐かしむそれに、如月は加わらなかった。目を伏せたまま、彼らのやりとりを聞き、笑い声を聞き、そして口を開いた。
「僕は、汀から影響を受けている。有用無用で判断するならば、それがすべて有用だったとは言わない。彼がこうでなければと思ったことも、ないとは言えない」
 村雨と壬生は、笑いをひっこめ、如月の顔を見た。
「今回のことだって、すべて良かったと思っているわけじゃない」
 村雨は、口を開きかけ、閉じた。そして、小さく首を横に振る。
 代わりに、壬生が口を開いた。一言一言がはっきりと発音され、目線はまっすぐに如月に向かっている。
「彼が天香学園に入らなければ。いえ、もっと言うならば、黄龍の器でなければ、ですか? ですがそれは、すでに無意味なIFだと僕は思います」
 如月は、壬生を見返した。頷きもせず、否定もしなかった。
 ただ、秒針がひとまわりするほどの時間が経った。
「だからこそ。僕は思う。秋月の申し出に断固として拒否を打つ阿門家当主の意思は、当たり前のことなのではないか。――江戸の、東京の安寧をという使命において、僕たちはまた、そんな人のつながりというものに対して、鈍感になりつつあったのではないか、と」
「――それで。如月さん、あなたはどうすべきだと。このまま、物理的な後始末以外は、あそこを放っておくべきだと?」
 いや、と。そう言って、如月は首を横に振った。
「汀に、決めさせようと思う。あそこでつながりを築いたのは、他ならぬ汀だ。だからこそ、危険を取り除くための犠牲として、あそこでの存在を消すか否か」
「そういや、はじめたのはそもそも、あの御仁だな」
「しかし……あの時に比べ、事情が少しばかり複雑な気がしますが。汀さんがかかわりを持った人間というのは、大半が卒業する。それはいいとして――もし、心を移しているのだとすれば、危険すぎませんか? 僕たちとは違うんですよ」
「僕は、そこまでお人よしなつもりはないよ。汀があそこに残れば、汀本人以上に、つながりを持った人間が危険だ。黄龍の器を狙う存在は、世の中に山ほどいる。そう、確認するつもりだ」
 如月の表情が、かすかに歪んだ。
「――その程度には、卑怯者だよ、僕は」
 村雨が頷く。少し遅れて、壬生もまた頷いた。
 重苦しい空気を、場違いなほどに軽やかな電話の着信音が破った。
 急いで立ち上がると、如月は廊下にある電話機のもとに向かう。
「――はい、お待たせいたしました。如月骨董品店で――うん? 三次会? ……ああ、ああ。わかった。うるさい蓬莱寺、聞こえない。いや、それで? ああ」
 先ほどとはうってかわった、日常のやりとりだった。
 息を詰めて聞いていた村雨の壬生の肩から力が抜ける。村雨は、微かに乾いた笑いを漏らす。
「……卑怯者、か」
 そう言って、がりがりと頭をかきまわす。
 壬生は、何も言わず、廊下から聞こえてくる声に耳をすませていた。