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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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「笑って誤魔化そうとしてるんじゃないぞ! オマエ、家庭教師してやるとか調子こいといて、ふざけんな? とっくに卒業判定会議なんざ終わったんだよ! おい、聞いてるのか」
「――なんで――」
 舌打ちが聞こえた。
「コレだよ」
 少しだけ、得意そうな声だった。
 鮮やかなまでに、京也の脳裏に浮かぶは彼の笑み。口の端を少し皮肉にゆがめ、少しあごをあげる。斜に構えているのに、どこか少年の無邪気さを残した得意げな笑顔。
「住所録だ。バカ」
 記憶は、消えるわけではない。
 ほんの一枚の挿絵とあらすじから、子供の頃に読んだ本を探し出す人もいる。
 消えるわけではないのだから、思い出そうとする努力で、地層の底に沈んだそれを、わずかな手がかりから引き出すことも可能だ。
 努力をはじめた理由は、たとえば久しぶりに成長した幼馴染と出会ったということかもしれない。新しく知り合った人間との共通体験かもしれない。街で聞いた歌。通りすがりに目にした新聞の見出し。――おぼえのない持ち物。
「……うわ、最悪……」
 ほんの一瞬の沈黙。
 音は聞こえなかったが、多分、大きく息を吸い込んだその間だろう。
 ボリュームと勢いを増した罵声が、勢い良く吐き出される。
 バリエーションに富むそれには、数多くの過去に共有したエピソードが練りこまれていた。よくおぼえているものもあった。そんなことを言っただろうかと、首をひねるようなものもあった。
 てのひらが、無意識の動作できつく白いプラスティックと金属のかたまりを握り締める。
 記憶の中の彼からは考えづらいほどに、間が空くこともなく、ボリュームも衰えなかった。耳に押し当てているには辛いほどの声量だった。
 だが、通話を切ることはできなかった。それどころか、耳から離すこともできなかった。
 ああ、コレじゃまるで危ない人だ。
 他人事のような感想を持ちながら、京也は水滴で曇る眼鏡を、顔からむしりとった。
 むしりとったてのひらで、ぐっと顔を抑えた。
「――」
 声は出なかった。