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ジェラシーの行方

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<一日目>

「お節介はやめてくださいと、言ってるでしょう?」
 我ながら、なんて冷たい声だろう。
 オジサンの不器用な優しい気遣いを、今まさに袖にしたところである。
 見るからにションボーンと、眉が情けないハの字になった。
 どう考えても態度が悪いのはこっちなのに、オジサンときたらへラッと笑って謝った。 少し下がりぎみの琥珀色の瞳が少し悲しそうに眇められる。
 傷ついた素振りを隠す態度が、ちょっと切ない。 
 ・・・・・・またやってしまった。
 どうして素直になれないのか、いっそ自分を殴りたくなる。
 たしかにちょっとウザい時も、たまにはある。
 でも、本当は嬉しいと思っているのだ。
 それなのに、実際の反応は見ての通りである。
 可哀そうなオジサンは、いつもぺしょりと踏み潰される。
 たぶん、それほど打たれ強くないのだと思う。
 年の功もあってなんでもない素振りがうまいが、いつもへらへらしているように見えて、本質は傷つきやすいのではないかと思うのだ。
 一瞬ひらめく悲しそうな瞳を垣間見るたびに、後悔の念に打ちひしがれる。
 わかっている、とってもわかってはいるのだ。
 態度が反対なだけで。
 別に彼は僕になんか構わなくても、友人に事は欠かない。
 こんな僕に構うのは会社の方針で、バディだからこそなのだ。
 僕にぺしゃんこにされた顔のまま、ぼんやり佇む虎徹さんにブルーローズが最強のツンデレを発動して構いまくっている。
 彼女のデレに絆されて、またもや頭を撫でている。
 むかつく・・・・・・
 それにしても、あんな構ってくださいフェロモンだだ漏れでぽつんと立っていたら、つぎつぎ人を釣り上げてしまうじゃないか。
 いわんことじゃない、もうほぼヒーロー全員が集合だ。
 イライラが募る。
 もちろん承知だ、自分がつっぱねたのだ。
「はあ~・・・・・・」
 知らず、盛大な溜息がこぼれる。
 なんて自分勝手なのだろう。
 むろんあの輪に入りたいわけじゃない。
 余計な人間関係はうっとうしいだけだ。
 その考えは変わらない。
 僕は、ただ・・・・・・


 明日は、少しくらい話を聞こう。
 ちゃんとオジサンをたてる態度を取ろう。
 「よし!」
 決意を示すように、ぐっと握りこぶしに力を入れて小さく頷いた。

  明日こそは!








       <二日目>

「いい加減にしてください!」
 ああ・・・、あんなに決意したのに。
「もう金輪際、僕に構わないでください」
 せっかく差し伸べられた手を、思い切り打ち払い居丈高に顎を上げる。
 なにを追い打ちをかけているんだ、僕は。
 しかも、上から目線。
 何様だ、自分!
 どうしてあんなひどいことが言えるんだろう。
 見ろ、あの捨て犬の様な目を。
 綺麗な琥珀色の瞳が傷ついたように少しだけ揺れる。
 けれど年下である僕に、彼は決して弱いところをみせない。
 すぐにその口元には笑みが浮かぶ。
 大丈夫、これくらいなんでもない、とでも言っているようだ。
 ・・・・・・胸が張り裂けそうだ!
 あんなに想ってくれているのに、天の邪鬼な己が憎い。
 僕が原因とはいえ、寂しさや沈んだ気持ちは心の隙をつくる。
 ほらまた、牛が余計なちょっかいをかけている。
 幼馴染みだかなんだか知らないが、バディであるこの僕を差し置いてオジサンを誘うなど。
 今夜もまた飲みに行く気だろうか?
 虎徹がちらりとこちらを顧みた。
 僕ときたら、その視線をことさら無視してツンと横を向く。
 見るからにぺしょり、と落胆するのがわかった。
 ばかばかっ、僕のばか!
 まったく何をやっているんだ、虎徹は肩なんか抱かれて牛に連れ去られてった。
 あの腕を捻りあげたい。
 よくも僕のオジサンになれなれしく・・・・・・
「あらやだ、ハンサムったらなんて顔してんの?」
 オカマ登場。
 くそ、こんな気分の時に相手などしたくない。
 ヒーローたちの憩いの場であり、鍛錬の場のトレーニングルームには素顔のヒーロー達が常に誰かしらいる。
 今日は人が少ないけれど、それでも先程立ち去った虎徹とアントニオの他にネイサンとキース、カリーナがいた。
 カリーナはさっき虎徹が出て行ったあと、ちゃっかりあとをついていった。
 まったく、わかりやすい。
 仮にもツンデレを演出するならもう少し根性を見せてほしいものだ。
 この僕のように!
「なにかご用ですか?」
「・・・・・・あんた、タイガーに甘えてんのね」
 いきなりそう切りだした。
 一瞬、絶句する。
 なにを言うのだ、このオカマは。
 僕がオジサンに甘えている?
 ばかな、そんなこと一度だってない。
 いや!むしろそれができたらどんなにいいだろう。
 本当はカリーナのようにうまく甘えられたらいいし、アントニオのように気の置けない関係になれたらどんなにいいかと思ってる。
 そう思っているのに!
「甘える?僕が・・・?なにをどう見たらそうなるんですか」
 思わずツンケンとした対応になる。
 いつもの外面を発動する余裕はなかった。
 僕がどんなに苦しんでいるか知らない癖に。
 ネイサンはいつになくまじめな顔で、すこしだけ同情のようなものを乗せて年若い後輩を見つめた。
 ほんと、面倒くさい子ね。
 せっかくこんなにイケメンなのに、なんていうかこう・・・・・・
 残念な子?みたいな。
 今にも噛みついてきそうなバーナビーを余所に、ネイサンはちょっとだけ失礼なことを考えていた。
 ふう、と小さくため息をつく。
「タイガーが許してくれることをあんたは知ってる・・・・・・だから他の誰でもないタイガーを感情のはけ口にしてんのよ」
「な、なにを・・・っ!」
「タイガーだって怒らないわけじゃないし、結構気が短いからケンカになることもあるかもしれない。でも、本能的にあんたは知ってる・・・・・・」
 綺麗にマニュキュアでコーティングされた指先がバーナビーに向けられる。
 心臓がありえないほど早く鼓動した。
 いったいこのオカマはなにをしたいのだ。
 ネイサンはいつものような大げさなオネエ仕草もせず、ただ静かに言った。
「タイガーは、あんたを見捨てない」
 耳鳴りがする。
 なにを言われたのかわからなかった。
 表情筋がこわばるのを感じた。
 いま自分がどんな顔をしているのか自信がない。
「ば・・・、ばかばかしい、何を言ってるのかわかりません」
 それだけの台詞を言うのに、いったいどれだけの時間がかかったかわからない。
 それはもう肯定と同意だ。
 こちらの騒ぎに気がついたのか、キースが少し気にかけるように様子を伺う素振りをみせている。
「なーんてね、別にあたしはどっちでもいいんだけど」
 急にくねっと腰を振ると、まるで何事もなかったようにネイサンはバチンと暑苦しいウインクを寄こして踵を返した。
 そのままキースの傍までいき、なにかしらちょっかいをかけている。
 ほんとうになんなんだ。
 言いたいことだけ言って、放置か!
 身体も動かしてないのに、嫌な汗がどっと流れた。
 バーナビーは、トレーニングを再開しようとしてすぐに諦めた。
 めちゃくちゃだ。
 鼓動が落ち着かない。
作品名:ジェラシーの行方 作家名:るう