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やさしい兎狩り2

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またあのうさぎだ。
 輝くような真っ白い艶やかな毛並みが美しく、立ち姿までが凛として完璧なうさぎ。
 けれどひどく寂そうな後ろ姿が印象的だった。
 どうしてこちらを向かないのだろう。
 こんなに呼んでいるのに。
 思い通りにならないうさぎ。
 あんなに身体全体で寂しいと叫んでいるのに、どうしてなにもない空間にぽつんと一匹でいるのだろうか?
 自分で自分を追い詰めているようにしか見えない。
 こっちを向け!
 声のかぎり叫ぶ。
 なぜか放っておけなかった。
 小さく反応するものの、うさぎは振り向かない。
 ぴょこん、と一歩前に進んだ。
 背中が意固地になっているように逆立っている。
 ぴょこん、ぴょこん、と怯えながらも前に進んでいく。
 やめろっ!その先に進むな。
 前方になにが待ち構えているのかちゃんとわかっているのだろうか?
 青々と茂る草原の中に、ぽっかり大きな穴があいている。
 なのにうさぎはまっしぐらに前方へと進んでいった。
 やめろ!――っ!!


 虎徹は、びっしょりと汗をかいて飛び起きた。
「またあの夢・・・・・・」
 必死に名前を呼んでいた。
 いったいなんと叫んでいたのか思い出せない。
「気持ち悪い・・・、なんなんだこれ」
 うさぎを引きとめようとする自分と、その声から必死に逃げようとしている自分。
 どちらの気持ちも、絡まりあい混ざり合っていた。
 なんかこう、心が雑巾みたいに絞られているみたいだ。
「うお、吐きそう・・・・・・」
 ぱたり、と突っ伏した。
 このまま寝ちまおう、夜明けまではまだ間がある・・・・・・
 虎徹はぎゅっと目を閉じて、無理やり眠ろうと奮闘した。




 結局あのままロクに眠れなかった。
 見るからにげっそり、という面持ちで会社に到着した。
 遅刻しなかったのは奇跡だろう。
 どすん、と椅子に腰かけると小さくため息をついてパソコンを開く。
 いつもは元気すぎるほど大声で挨拶する虎徹の、そのあまりに覇気のない姿に事務の女性も怪訝そうな顔をした。
 すでに出社していたバーナビーは、挨拶するタイミングを逸して戸惑っている。
「ん?あ・・・、おはようバニー」
 それを察したのか、虎徹がふと顔を上げて小さく笑った。
「お、おはようございます」
 反射的に答えて、すぐにあたふたとパソコンに向き直った。
 虎徹はそんなバーナビーを見ながら、心が少し浮き立つのを感じた。
 ・・・・・・ん?
 無意識にそっと胸を押さえる。
「また胸を…、胃でも痛いんですか?」
 いきなり振り向いたバーナビーがちょっと心配そうに聞いてくる。
「え?オレが?なんで」
「いえ、ここ数日、胸を押さえているのをよく見かけるもので」
 よく見てんなー・・・・・・そんなにか?
「変な癖がついてるだけだ、なんでもない」
「・・・・・・」
 その瞬間、何の前触れもなく胃液が逆流した。
 うおっ?いきなり来た・・・っ!
 鳩尾からジリジリとせり上がってきて、臓腑がちぎれるほど絞られる感覚。
「うっ!・・・・・・う、・・・だめだっ」
 がたん、と乱暴に立ちあがった拍子に椅子が後ろへ倒れた。
「おじさんっ?!」
 虎徹は慌てて部屋から飛び出し、トイレへと駆け込んだ。
 洗面所で唸っていると、すぐにバーナビーが飛び込んできた。
「大丈夫ですか?」
 どこから持ってきたのかタオルを片手に、バーナビーは一生懸命に虎徹の背中をさすった。
「・・・・・・医者を呼んだ方がいいのでは?」
「あ、いや、平気だって、ちょっと気持ち悪くなっただけだから」
「平気って・・・、おじさん自分の顔色わかってますか?」
 ようやく顔を上げた虎徹に、バーナビーはすこし怒ったように首を振った。
「や、本当にそういうのじゃないから・・・・・・」
 虎徹にしてみれば、これは夢の影響だとわかっているからこそだったが、バーナビーにしてみれば理不尽な返答だったに違いない。
 その顔が、一瞬やるせない表情に歪む。
「っ?!うえぇ・・・・・・っ!」
 虎徹がいきなり吐いた。
「おじさんっ!?・・・・・・誰か、誰か人を呼んでください!」
 いつの間にか、トイレの外には人が集まっていた。その人たちに向かって、バーナビーはひどく取り乱して叫んでいる。
 うわっ、勘弁して。
 なにこれ、なんでいきなりこんな。
 不安と恐怖がごちゃ混ぜになったような、ひどいパニック状態。
 腹の中がひっくりかえりそうだ。
 そう・・・、この気持ちはたぶんオレじゃない。
 パニックを起こしているのは・・・・・・
 足に力が入らず、ずるずると崩れ折れそうになる虎徹をバーナビーが支えた。
 ううっ、バニー・・・、おじさん、おじさん、うるさいっ!
 耳の近くで叫ぶな。
 聞こえてるっつーの!
 目が回る・・・・・・、お願い少し落ち着いて。
「あ~・・・、なんか色々わかったわ、オレ」
 バーナビーの顔をやっとの思いで見上げて、虎徹は小さく笑った。
「急いでくださいっ、変なうわごと言ってます!」
 やめて、バニーあんまり大事にしないで~
 マジ、お前さえ落ち着いてくれれば万事解決なんだってば・・・・・・
 しかし虎徹の願いもむなしく、バーナビーにお姫様だっこされた姿を全社員に披露した揚句、救急車まで呼ばれるというとんでもない事態になってしまったのであった。
作品名:やさしい兎狩り2 作家名:るう