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龍吉@プロフご一読下さい
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Just Be Friends_Unhappy end

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Just Be Friends_Unhappy Ending




あの日お前と出会えたことに、私は全身全霊の感謝を捧げよう。
あの日お前と出会ったことに、私は全身全霊の後悔を連ねよう。

世界で誰よりお前を愛しているから、全ての想いを断ち切ってくれ。



Just Be Friends_Unhappy Ending



祝家荘での戦いの後、林冲は長らく安道全の療養所で治療を受けていた。肺に達する程の深手だったことを林冲自身も自覚していて、療養所では非常に大人しかった。
「えらく景気の悪い顔してんな、林冲」
白勝が、粥を運ぶついでに林冲に声をかけた。
「まあ、奥さんが生きてるかもって聞いて、それが罠だったら落ち込みもするか」
白勝は、思ったことをそのまま口にする。それは意外な程に不快ではなく、むしろ好ましい接し方だった。そういうところでも、安道全の助手として買われているのだろう。
「なんにせよ、大人しくしててくれりゃ治りも早くていいや」
じゃ、と薬を枕元に置いて白勝は部屋から出て行った。
林冲はその薬を水で飲み干す。薬が効き始めるまでに、少し時間がある。
「で、何の用だ?公孫勝」
ずっと口を閉ざしていた林冲が口を開いた。公孫勝は、林冲の使っている部屋の壁の外側にいた。雨樋の僅かな足場に立ち、壁に背中をぴったりと寄せていたのだ。
「覗きか。いい趣味だ」
「お前の寝首を掻きに来た」
窓から入り、林冲を見下ろす。
無精髭が浮き、少しだけ窶れた林冲の横顔は不機嫌そうだ。何とも言えず、腹立たしい。
腰の剣を抜く。その鋒を林冲の首に突き付ける。
「今なら、簡単に殺せるな」
「殺したければ、殺せよ」
無愛想に、吐き捨てるように言われた。
「殺してみせろよ、出来るんなら」
林冲が剣を掴んで自ら喉に突き立てようとした。剣を引いて、林冲の手を振り解く。林冲の手のひらが切れて、血の飛沫が寝台と床に飛び散った。
「どうせ、お前は俺を殺せはしない」
無感情な、腐った眼をしたままで林冲が言う。その眼が、公孫勝を苛立たせる。
「貴様をいつ殺すかは、私が決めることだ。勝手に死ねると、思うな」
「なら、どうしてあの時俺を助けた」
「何の話だ」
「罠から逃げ出す時。あれは、致死軍だっただろう」
「たまたま近くで、別の任務があっていただけだ。致死軍には違いないが、指揮していたのは私ではない。私なら、任務を放棄してまでお前を助けたりなどしない」
「嘘だな。あの時、あの辺りで致死軍は動いていなかった」
「極秘任務だった。お陰で、それまでに積み上げてきた下準備が全て無駄になった」
「それも嘘だな。そんな任務なら、途中放棄して軍令を無視した指揮官の救出に向かうなんてことはあり得ない。総隊長であるお前の命令でも、下されない限りはな」
言葉に詰まった。
珍しく、林冲に論破されそうだ。普段動き回っていた分の余力が、全て致死軍の行動に対する疑問にぶつけられていたとしか思えないほどの冴えだ。
「今日は随分、頭と舌が回るじゃないか、林冲?」
「そういうお前は、随分と詰めが甘いんじゃないのか」
林冲に手を掴まれる。血に塗れて、生暖かい。
「俺を、助けに来たんだろう」
「どこまでおめでたい頭をしているんだ?お前は。貴様が死のうとどうしようと勝手だがな、貴様から漏れては困る情報があるのだ。本来私たちは、貴様を殺す為にあの場に向かった。目的は、捕虜となった貴様の暗殺だった。貴様が敵に捕らえられていた場合、弓で射殺するつもりだった」
手を振り解きながら、そう吐き捨てる。
「生憎だったな」
「ああ、殺せなくて、残念だ」
本心だ。
殺せるものなら、殺してしまいたかった。
「いっそ、殺されてしまえば楽だったのに」
林冲が呟く。
「女を、一人も守れていない。張籃も、この間の身代わりの女も。誰一人、救えなかった」
「みっともない。無様だな」
「そうだな。俺に、何が守れると言うんだ。生きていて、何の意味があるというんだ」
「なら、もっとみっともなく石にかじりついても生き延びろ。生きている意味を、自分で作り出してでも周りに思い知らせればいい。そういう貴様の中途半端な所が、実に腹が立つ」
「ふ、ははっ」
力なく、林冲が笑った。
林冲の眼が、公孫勝を照らす。生きている眼だ。
「励ましているつもりか。心配せずとも、俺はお前より先には死なん」

その笑顔が、胸に突き刺さる。

「そうだな。もう少し、生きてみようか」
誰かを守れるかもしれないからな、と林冲は言う。
「所詮、こんなものか」
呟きが、口から漏れ出す。
「何がだ?」
「お前は、私を殺したいとは思わないのか」
「たまに八つ裂きにしてやりたいとは思うが、俺はお前を友だと思っている」
弱々しいが、悪戯っぽい笑顔を向けてくる林冲の、言葉の一つ一つが公孫勝の胸を貫く。

私は、見知らぬ誰かに奪われるくらいなら、いっそこの手でお前を殺してしまいたいと思うのに。
お前は私を殺したいと思ってはくれないのか。

自分とこいつでは、こんなに抱く愛の形が違うのに。
こいつの言葉は、こんなに自分を傷付けるのに。
なのに、こんなに悲しくなるほど、こいつのことを好きだなんて。
無様なのは、自分の方か。
こんな心を抱えて生きるくらいなら、この心に止めを刺そう。
それが、この感情の海で足掻く自分の唯一の活路。
未練も思い残しもある。でも、これでいい。


「用は、終わりか?」
林冲は薬が効いて来たのか、瞼が閉じかけている。
「ああ」
林冲が目を閉じる。眉間の皺が解け、あどけない寝顔で眠る林冲の頬に触れる。
「願いが叶うのならば、お前は何を願う?奥方を、生き返らせるのか?」
ならば自分は、両親を生き返らせるのか。何もかもを狂わせたあの日を、変えるのか。
そうしたら、きっとこいつには出会えなかった。
「一度だけ、願いが叶うのならば、私は」
どんなに傷付いて、どんなに草臥れても変われない心。
記憶の中でもう色褪せてしまいそうな、あの笑顔。

「もっと素直になって、もう一度あの日のお前に会いに行く」

そうしたら、いまここで涙を流して、楽になれるだろうから。


「さよなら、林冲」

やっとのこと絞り出した一言が、虚しく残響を残してやがて消えた。

もう二度と、振り返ることはないだろう。