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太陽

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 吹っ飛ばされた衝撃と、目の前の男から発せられる威圧感で身体をうまく起こすことができなかった。
 見下ろす鋭い眼光に射抜かれる。遊馬の大切な鍵――俺が前にこの手で砕いたはずなのに、おかしなことに傷ひとつなかったけれど――は先ほどの衝撃で紐が切れて手の届かないところまで飛んでいってしまった。馬鹿だなあいつは。俺に2回も紐を千切られて奪われたのに、もっと丈夫な紐か、鎖ででもつけてろってんだ。
 ナンバーズハンターは冷酷に俺を見下し、じりじりと近寄ってくる。鍵じゃなくて俺にだ。そういえば魂ごとナンバーズを狩るとか言っていたか。じゃあ俺は魂を狩られるのか。オカルトじみた冗談にしか聞こえない話だが、ナンバーズというカードの存在を考えると、あながち嘘にも思えない。ナンバーズを持っているなんてハッタリきかせて、デュエルで追い返してやろうなんてした自分が馬鹿みたいだ。ナンバーズハンターのライフポイントに傷ひとつつけられなかった。完敗だ。相手の戦術を読みきったつもりが、相手は遥かその上を行っていた。己の力を過信しすぎた慢心か。こちらのエースモンスターのエクシーズ召喚すら許してもらえなかった。井の中の蛙大海を知らず。俺がデュエルから離れていた間に、こんなに強い奴がいたなんて。
 それでも後悔する気持ちは全然無かった。負けたことに対する恐怖も絶望もなかった。前はあんなに負けるのが怖くて怖くて仕方なかったのに。ぜんぶ失ってしまうんじゃないかって不安で不安でしょうがなかったのに。
 口うるさい先生が言ったとおりかもしれない。遊馬は太陽みたいなやつだ。闇の中にいた俺に光を与えてくれた。居場所を教えてくれた。あんな生意気で、しつこくて、うざくて、デュエルの腕もヘボいやつなのに。気付ばあいつのことを目で追ってる、あいつのことを考えてる。なんだよこれ、走馬灯かよ。あいつの顔ばっかり浮かびやがる。14年も生きてきて、走馬灯がつい最近会ったばっかりのヘボデュエリストで埋め尽くされてるなんて、シャレになんねぇ。
 自嘲に唇がつりあがる。いよいよ歩みを止めたナンバーズハンターはすっと右手を俺に翳した。何をするのかわからない。這ってでも遊馬の鍵をとりに行きたいところだが、畜生、身体中が痛い。動けない。なさけねぇ。せめてもの抵抗にナンバーズハンターを睨んでやる。今度デュエルするときには、覚えてろ。俺は強くなる。強くなって、大切なものを守れるようになるんだ。
「狩らせてもらうぞ、お前の魂ごと」
 死刑宣告のような冷たい響き。ナンバーズハンターの手から何か得体の知れないものが伸びて身体のなかに入っていく。いつかも――そうだ、遊馬とはじめてデュエルをして負けたとき。そのときも得体の知れないものが自分の身体の中に入ったような気がした。そのときはすうと呼吸のように中に入って抜けていくようだったけれど、こいつは違う。激痛が奔る。自分の存在すべてを握りつぶされるような感覚。悲鳴が漏れる。俺という存在が身体の中から抜けていく。痛い。苦しい。それでも、恐怖はない。
 あるのは遊馬への、謝罪の念と期待。
 すまねぇ、遊馬。お前の大切なもの、守れなかった。
 言い訳がましいが、俺、諦めなかったぜ。
 でも、こんなことをされるのがお前じゃなくて良かった。
 お前ならきっとこいつから、大切なもの、取り戻せるよな。
 遊馬。お前は本当に、俺の――。
 そこで意識はぷつりと黒に染まる。
作品名:太陽 作家名:110-8