ついったログ(トリコマオンリー)
1
ぽつりぽつりと雨が降る左腕が痛い。
引き攣った喉と赤い目では、明日からの料理は大変だろう。
それでも、なぁ
「こま、つ」
お前が笑うなら、俺は死んだって生き返れる気がするんだよ。
大丈夫だよと笑えば、どこがですかと顔をくしゃくしゃにしてお前も笑うから、俺は何もかもいいような気になる。
2
ぱち、と隣で目の開く気配。
動くことなく目を閉じていれば、へへ、と小さく照れたような声がする。
かぶせた腕を押しのけようと数秒抵抗するが、結局いつものように断念して小さく腕に収まる。
唇のひとつでもくれやしないかと少し期待するが、期待をとことん裏切る男は今のところその気配もない。が。
「…トリコさん、朝ですよー」
この男にはめずらしく、小さく囁くような、起こす気のまるでない甘い声。
両手を口元に添えて繰り返すその動作は、どこか嬉しそうで。
「…おう。」
ゆっくりと目を開けそのふやけた顔を見るのが存外楽しみだと言えば、この男は次は何をしてくれるのだろうか。
3
電話の呼び出し音が耳に当たる。
一秒ごとに後悔が後押しして思わず通話を切りそうになる。
あの忙しい人がとってくれるだろうか自分を覚えているだろうか、
なんて期待 できるはずないのに
「もしもし?」
第一声 震えた声 。
「とりこさん、ですか ?」
あぁ、気持ちまで伝わりそうだ。
4
「待て、今から行くから」
「え、っ?」
戸惑った声をそのままに通話を切る。
心もとない小さな機械から聞こえた甘い声は、俺を突き動かすには十分だった。
らしくもなくがむしゃらに体を夜に滑らせる。
鼓動、跳ねる心臓 乱れた吐息。
今すぐにお前のところまで飛んでいければいい、なんて。
5
圧縮した食パン1斤とベーグル50個を開封すれば、香ばしい匂いがあたりにたち込める。
ソースは厳選して5種類。食材は大半がその場のものだ。
「お待たせしました!」
30センチはあろうかという特製サンドが「いただきます」の言葉とともに消える。
戦いでぼろぼろの体が、僕の料理で癒えるのなら、
僕の戦いはこれから だ 。
「まだまだありますから!」
何かを倒すことはできないこの手でも、貴方を守り生かすことはできると信じて。
作品名:ついったログ(トリコマオンリー) 作家名:ゆうや