アンディの仕返し
ブロォォォッ……
バイクで走り続けて、いくぶんなだらかな道に入った。それなのに、キュッと自分よりひとまわり小さな手が、背後から服を握りしめてくる。しがみつき、コツン、と頭を背中にぶつけてくる。服越しに、サラ……と柔らかな髪が流れる感覚。心地よいぬくもりと重さ。
ウォルターはその意味するところに気付き、慌てて振り返る。
「……もしかして、眠い?」
首をひねっても、丸い頭しか見えない。
「ってか、寝てる? おいっ、落っこちるぞ、アンディ!」
返ってきたものは、寝息だった。
「ぐー」
だが、寝息にしては、それは少しはっきりしすぎていた。
ウォルターはいっきに目を据わらせて、低くぼそりと言う。
「……アンディ。落っことすぞ」
『「ぐー」じゃねぇっての』とぼやく。
「ひとりで気持ち良く寝かせてたまるかっ……」
前に向き直り、腰の手がまだしっかりと服をつかんでいることを確認して、軽く腰を浮かせ、思いっ切り踏み込んでバイクのスピードを出す。
「それっ!」
急に出たバイクのスピードに、反動で一度はなれたアンディの頭が、ドンッとウォルターの背中にぶつかった。
「……」
またスピードをゆるめ、ウォルターはニヤついて後ろを振り返る。
アンディの片手が痛そうに頭をおさえていた。
沈黙。
『してやったり』と気分のよくなったウォルターが通常運転に戻って少し。
背後からのびたアンディの手が下からウォルターの服の襟首をつかむ。
「ぐえっ」
後ろからがっしと襟をとらえた手のおかげで首がぐいぐいとしまって苦しい。ハンドルを握る手に力がこもる。ウォルターはのけ反った苦しい体勢で必死に声をしぼり出す。
「ちょっ……おい、アンディ! 首しまってるって!! おいっ、よせ、アンディ!」
「ぐー……」
「『ぐー』っておい……絶対ウソだろ! アンディ!!」
(おしまい)